SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.197
「そうえきけいしゅう の歌」
について

(2026年5月30日)


どうしても夜中眠れなくなった時、私はラジオの深夜放送を「未だに」朝まで聴いているのです。


ラジオのチューナーのダイアルをあっち回したり こっち回したりしながら、ラジオ・サーフィンしているのです。
そんな時、NHKラジオ「ラジオ深夜便」で「イヴ・モンタン」の特集をやっていました。
(2025年11月16日(日)午前2時台、ロマンチック・コンサート。ビンテージ・ポップス、イヴ・モンタン作品集〉

「イヴ・モンタン(1921~1991)」は20世紀半ば、フランスで活躍した俳優・シャンソン歌手(イタリア出身)です。
昔日本でもフランスの歌「シャンソン」が流行っていた時代があったのです。
彼が唄ったヒット曲は、「枯葉」「ハラ色の人生」「セ・シ・ボン」「さくらんぼの実る頃」等々、たくさんあります。
「さくらんぼの実る頃」は、宮崎駿の劇場アニメ「紅の豚(1992)」でも使われていました。
俳優としては、「恐怖の報酬(1953)」「パリは燃えているか(1966)」「パリのめぐり逢い(1967)」等が有名でしょう。

そして、そのラジオで聴いた「イヴ・モンタン作品集」の中で、「そうえきけいしゅう の歌」という曲が私の心に妙に刺さったのでした。


テレビだったら曲名タイトルが「テロップ」で出る来るのでしょうが、ラジオではタイトルが文字化されません。
「そうえきけいしゅう」ってどう書くのだろう?
それは私が今まで全く聞いた事の無い「言葉」だったのでした。

ラジオ番組表を調べて見たのですが、曲名は載っていませんでした。
唯一、番組MCによれば「太古のガレー船でオールを漕ぐ人たちの唄」である、と紹介されていました。
操疫(そうえき)?
槽疫囚(そうえきしゅう)?
後日、ネットで再び調べ続けました。
そして、何回かのネット検索の末(検索ワードをいろいろ変えて)、ついに探していた「答え」が見つかったのです。


「そうえきけいしゅう の歌」。
「イヴ・モンタン」が唄うこの歌、フランス語の原題は「Le Galérien(ル・ガレリアン)」。
日本では「ガレー船の囚人」というタイトルが付けられているそうです。
昔のロシア民謡「漕役刑囚の歌」が原曲とされ、フランスでフランス語の歌詞を付けて「イヴ・モンタン」が唄ってヒットした、とありました。
これで「そうえきけいしゅう」が、「漕役刑囚」と書く事が判明したのでした。


昔観た「ウィリアム・ワイラー」の超大作映画「ベン・ハー(1959)」にも、この「漕役刑囚」が出てた事を思い出しました。

1~2世紀に旺盛を極めたローマ帝国時代の話。
親友だと思っていた友の奸計に嵌まり、貴族のベン・ハー(チャールトン・ヘストン)はローマ人の奴隷にまで身を墜としてしまいます。
彼はガレー船の船底で他の囚人たちと一緒に鎖で繋がれ、オールを漕ぐ羽目になってしまうのです。
本映画はベン・ハーの数年に渡る「復讐譚」であります。
この映画には大きな二つのハイライトシーンがあります。
ひとつは「巨大競技場」での大迫力で熾烈な「騎馬戦」シーンであり、もう一つが前半の見せ場となる「地中海」で繰り広げられるガレー船同士の「大海戦」シーンでした。


「ガレー船のオールを漕ぐ囚人」で思い出す映画が、他に二つあります。

一つは、「テリーギリアム」の短編(映画、人生狂騒曲〈1983〉のオープニング部分)「クリムゾン 老人は荒野をめざす」です。
もう一つが、「テリー・ジョーンズ」の「エリック・ザ・バイキング(1989)」です。「関根勤」がエキセントリックな「囚人監視官」役で出ていました。
何故か二作とも「モンティ・パイソン」の人が監督しているんですね。

ガレー船の漕ぎ手は、古代ギリシャ~ローマ帝国時代、そして18世紀まで続いていました。
しかし、「奴隷」をガレー船の漕ぎ手として使うのは、映画「ベン・ハー」の創作らしいのでした。
(元の原作小説の創作かな?)
奴隷を使っていたのは、18世紀になってからなのだそうです。
古代ギリシャやローマ帝国時代、オールを漕がすため囚人を連れて行く「余裕」はなく、オールを漕いだ後は槍を持って戦う「兵士」の役目なのでした。
「漕役刑囚」というのは、「ベン・ハー」という「復讐物語」を演出するための創作らしいのです。


「漕役刑囚(そうえきけいしゅう)の歌」。
哀愁のある、陽気だけど どこか悲しいシャンソンです。
辛いけども毎日一生懸命 汗水流して頑張ろう、みたいなどこか「労働歌」っぽい雰囲気を持っています。
元歌がロシア民謡だと聞くと、「なるほど」と納得してしまいます。
フランス語の歌詞の内容は、「母の愛を信じなかった男が、過酷なガレー船の労働の中で、母の愛を回想する哀歌」という事らしいのでした。


こうして「そうえきけいしゅう」が「漕役刑囚」と書く事が判りました。
映画「ベン・ハー」描かれる「奴隷になった主人公がオールを漕がされる」のが、本当は「ローマ帝国時代」には無かった事も判りました。

幾つになっても、知らなかった事を知るのは、本当に楽しい事です。
単に私がいろいろな事を知らないだけですが、そのせいで人生一生勉強 日々これ好日 毎日毎日楽しく嬉しいのでした。


「勉強」と言えば思い出すのが昔のNHKの人形劇、「ひょっこりひょうたん島(1964~69)」です。
私はこのテレビ人形劇の大ファンなのですが、この人形劇、とても良質で傑作揃いの「ミュージカル」でもありました。
作詞は脚本の「井上ひさし」と「山元護久」。
作曲が「宇野誠一郎」。
名曲揃いの劇中歌の中でも最高傑作なのか、「勉強なさい」だと私は思います。
この歌は小学校の先生「サンディ先生」と生徒の子供たちの掛け合いで進みます。

「♪勉強なさい 勉強なさい
大人は子供に命令するよ
勉強なさい
偉くなるために? お金持ちになるために?
あーあーあーあー、そんなの聞き飽きた!
いいえ良い大人になるためよ
男らしい男 女らしい女 人間らしい人間
そうよ人間になるために さあ勉強なさい!」

そうか。
私は良い大人になるため、人間らしい人間になるため、一生かけて「勉強」しているのですねえ。




目次へ                               次のエッセイへ


トップページへ

メールはこちら ご意見、ご感想はこちらまで