「大脱走」という昔の戦争映画があります。 原題を「THE GREAT ESCAPE」。 1963年のワーナーブラザーズの映画です。 戦争映画と言いましたが、厳密には「戦闘シーン」があるワケではなく、第二次世界大戦、ドイツ軍の捕虜収容所に集められた連合国軍将兵たちの「脱走」のドラマです。 監督は「ジョン・スタージェス」。 出演者たちが豪華オールキャストで、「スティーブ・マックイーン」「ジェームズ・ガーナー」「リチャード・アッテンボロー」「チャールズ・ブロンソン」「ジェームズ・コバーン」「ドナルド・プレザンス」「デビット・マッカラム」等々、当時の個性派スターたちが大勢出演しています。 また音楽は名匠「エルマー・バーンスタイン」。 この映画を観た事がない人でも、この「大脱走マーチ」は確実に聴いた事がある名曲でありましょう。 この「大脱走マーチ」は、映画の中で各シーンごとに見事なアレンジが施され、サントラを聴いているだけでも、各名場面がそれぞれ鮮明に思い出されるほどです。 第二次世界大戦末期の1944年、ドイツ軍首脳部は各地にある捕虜収容所からの度重なる脱走が相次ぐことに業を煮やし、その脱走常習犯たちを一つの収容所に集め、厳重に監視する事にします。 その収容所の名は、「ルフト第3捕虜収容所」(原作ではスタラグ・ルフト北捕虜収容所)。 「腐った卵は一つのカゴに」というのが収容所所長の「ルーガー」ドイツ軍空軍大佐の思惑でした。 しかし、その「腐った卵」を集めた結果、そこには「脱走のプロたち」が集まる事になってしまったのでした。 さらに、伝説の脱走計画指導者「ビックX」こと「バートレット(リチャード・アッテンボロー)」までが収監されるにいたって、彼らは「史上最大の脱走計画」を実行する事にしたのでした。 「脱走のプロたち」は、それぞれ、「教育屋」「情報屋」「監視屋」「トンネル屋」「調達屋」「工作屋」「工夫屋」「衣装屋」「偽造屋」などと役割を分担し、それぞれ自分の特殊な技を発揮していきます。 「一気に250名を脱走させる」という前代未聞の「脱走計画」が始まったのでした・・・。 この映画は実話を元にしており、その「集団脱走」が実行された日は、連合軍の大侵攻「ノルマンディ上陸作戦(Dデイ)」の当日であったと言います。 つまり、その「上陸作戦」のためのドイツ国内の「後方撹乱」という目的も持っていたのでした。 (ちなみに、映画ではその設定は描かれていない。もっと言えば、捕虜たちがアメリカの独立記念日である7月4日の祭りを行った後に脱走しているので、Dデイの6月6日以降の設定になっているものと思われる)。 映画前半部分の、「脱走のプロたち」による「大脱走」の用意周到で緻密な計画実行の描写、そして映画後半部分の「脱走の旅」、さらに結末に待っているそれぞれの「運命」・・・。 もう何回観ても「ワクワク」し、また「ハラハラ」し、最高に面白いのでありました。 この映画の中には好きなシーンがいっぱいあります。 「大脱走」と言えば、「スティーブ・マックイーン」が盗んだドイツ軍のバイクで、ドイツとスイスの国境の高い柵をジャンプして越えるシーンが有名だと思いますが、もちろん、その場面も好きなのですが、それ以外にも好きなシーンがたくさんあるのです。 例えば。 収容所の中のたった3人だけのアメリカ兵たちが「アメリカ独立記念日」に「密造芋焼酎」を造り、みんなに振る舞う。 久しぶりに開放感に溢れ、大喜びの捕虜たち。 そんな中、秘密裏に掘っていた脱走用トンネルの一つがドイツ軍に見つかってしまう。 精神的に追いつめられていたスコットランド将兵の「アイブス」は思わず収容所の鉄条網に駆け昇り、大勢が見ている前で射殺されてしまう・・・。 映画前半のエンターテイメント性たっぷりで、少々コミカルな「脱走計画物語」が、一気に「シリアスな戦争物」になった瞬間の名シーンだと思います。 また、こんなシーンもあります。 収容所で同室になったアメリカ将校で「調達屋」の「ヘンドリー(ジェームズ・ガーナー)」とイギリス将校で「偽造屋」の「ブライス(ドナルド・プレザンス)」。 国も年齢も、性格もまったく違う二人の間に段々と友情が芽生えていく。 しかし、厳しい収容所暮らしの中、「進行性近視」という病気によってブライスの視力は次第に失われていく。 そして脱走前夜。 脱走計画主導者バートレットは、ブライスに「計画の障害になるから君の脱走は認められない」と厳しい通達をする。 それを聞いていたヘンドリーが言う。 「俺が一緒に連れて行く」と。 特にこの「ブライス」は私の好きなキャラクターで、昔、同じ「大脱走好き」の友人相手に、「ブライスがヘンドリーに入手を依頼したカメラはどんなカメラだ?」などといったクイズの出しっこをしたモノです。 ちなみに、答えは、「フォーカル・プレーン・シャッター。35ミリF2,8」。 そして、一番私の好きなシーン。 収容所を脱走し、何回かの危機を脱した後、ドイツの田舎町でついにゲシュタポに追いつめられる「バートレット」。 閉じられた建物の扉に身体を押しつけられ、ドイツ兵たちに取り囲まれ銃を突きつけられる。 観念し、ゆっくりと両手を上げるバートレット。 そこに町の教会の鐘が鳴り響いてくる・・・。 つまり、「ゲームオーバー」。 このシーンはとっても印象深く、「こおいうのが映画だっ!映画の名シーンなのだっ!」などと私は思うのでした。 また、「大脱走」の素晴らしいところは、メインの登場人物だけで「20数名」という大人数なのに、それぞれのキャラクターがきちんと描かれており、それぞれ一人一人に「名シーン」「名セリフ」がちゃんと用意されている事です。 私はこの手の「集団劇」が大好きです。 誰が主人公というワケではなく、みんながそれぞれの役割を持ち、そしてドラマが進行していくという。 「大脱走」は非常に良く出来た「集団劇」なのです。 この映画の製作ドキュメンタリーを見ると、スティーブ・マックイーンが「なんじゃ?この脚本?俺が主役になっとらんやんけ!」と言って、一端映画から「降りた」らしいのですが、そのエピソードも納得出来ます。 主役級のマックイーンにしても、この映画では「登場人物」の一人に過ぎなかったのでした。 これは監督が凄かったのか、それとも脚本が凄かったのか。 私の子供時代には「年の暮れ」になると、この大脱走が毎年といっていいほどテレビで放映されたモノです。 しかも「前編」「後編」に分けて2週に渡っての「歳末特別番組」でした。 その時の「刷り込み」か、今でも年末になると必ず私はこの傑作映画を思い出し、そして手持ちの「LD」やら「DVD」やらで、またまた観てしまうのでありました。 (追加補記。20150710) 「大脱走」がお好きな方にお勧めしたい映画があります。 「チキンラン(2000)」です。 監督は「ニック・パーク」と「ピーター・ロード」の、立体コマ撮りアニメ―ション映画です。 ニック・パークは「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」で有名なイギリスのアニメーターです。 この「チキンラン」は、養鶏場に飼われた雌鳥たちが残忍な鶏舎主から「集団で脱走」するというお話で、そう、「大脱走」の良く出来たオマージュにもなっているのです。 「大脱走」好きなら、そして、まだ観た事がない方には是非、お勧めするのであります。 脱走計画を練る雌鳥たちが集まる鶏舎が「17号舎」で、これも往年の第二次大戦脱走モノの名作「第十七捕虜収容所(1953)」から来ているのであります。 DVDで観られるなら「吹き替えバージョン」が、凝りに凝った映像に集中できるので、さらにお勧め致します。 |
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