1887年イギリスロンドンで、クリスマス用の娯楽雑誌「ビートンのクリスマス年鑑」に最初のホームズ譚「緋色の研究」が載りました。 その4年後、1891年7月から今度は「ストランド誌」で「シャーロック・ホームズの冒険」と題した読み切り短編が連載を始めます。 そして同年の11月には、さっそくホームズのパロディ小説「My Evening with Sherlock Holmes」が創られたのです。 「パロディ」とは原作を少し批判的に面白く茶化した物。 「パスティーシュ」とは「贋作」と訳される事もありますが、愛を持って、まるで原作者が書いたかの様に模倣された作品の事。 と言うワケで、ホームズのパロディ・パスティーシュは「すでに120年近い歴史」があるのです。 今回もホームズのパロディ・パスティーシュの話なのであります。 「シャーロック・ホームズ 知られざる事件」 「リチャード・L・グリーン」編。 「佐藤明子」訳。 勉誠社。 これは「推理探偵文学館シリーズ」の2巻目で、ホームズ・パスティーシュを集めた短編集です。 アーサー・ホウィティカー「シェフィールドの銀行家」、スチュアート・パーマー「狙われた男」、ジュリアン・シモンズ「消えた婚約者」の3編が収録されています。 「シェフィールドの銀行家」は「1895年の晩秋」、結婚後久しぶりにホームズの元を訪ねたワトスン、そして始まる「小切手偽造事件」の話です。 本作は「コナン・ドイル」亡き後、彼の書斎から発見され、長い間「これはドイル未発表の61作目のホームズ譚だ」と信じられていた物です。後に真相は「ドイル・ファンから送られてきた原稿」だった事が判明しています。 「指名手配の男」というタイトルでも知られています。 ホームズが捜す小切手偽造犯「ジェイビズ・ブーヅ」は、すでにニューヨークへと向かう船に乗ったばかりでした。 ホームズとワトスン、そしてロンドン警視庁の「レストレイド警部」は彼をアメリカに入国する前に捕まえようとします。 ホームズは「アームチュア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)」に徹し、実際にアメリカまで行き犯人を捕まえようとするのはレストレイド警部、というのが珍しい展開です。 「ジェイビズ・ブーツ」の乗った船はニューヨークの港で、「コレラ騒ぎ」のため足止めを食らっていました。 そこにイギリスからレストレイドが到着します。 しかし彼が乗っているハズの船には「ジェイビズ・ブーツ」の姿は無かったのです。 彼は何処に消えたのか・・・。 「狙われた男」も「1895年」の事件です。 パスティーシュに「1895年の事件」が多いのは、宿敵「モリアーティ教授」と格闘しスイスの「ライヘンバッハの滝」に墜ちて死んだと思われていたホームズが、その3年後、ロンドンに戻って来たのが「1894年」の事で、ワトスンがその翌年を「ホームズが1895年ほど精神的にも肉体的にも好調だった年を私は知らない」と書いているからなのでした。 この「1895年」はシャーロキアンたちに「好調の年」と呼ばれています。 「狙われた男」は続けて命を狙われた「ドナル・ペンダヴィス」の事件です。 本作はホームズと真犯人二人の会話が秀逸でした。 「あなたは恐ろしい人だ、ホームズさん」 青年はつぶやいた。 「どうしてわかったんです?」 「どうしてわからないと思うんです?」 また物語の締めくくりも洒落ています。 物語の最初にワトスンの結婚話(彼の二度目の結婚か?)が持ち上がっているのですが、事件が全て終わった後にワトスンとホームズが、 「君が何と言ったって僕の決心は変わらないよ。 今度ロンドンへ帰ったら僕はエミリアに結婚を申し込むんだ」 シャーロック・ホームズは親愛の情を込めて私の肩に手を置いた。 「それでいいさ。結婚して彼女を養ってやりたまえ。 近いうちに僕は田舎へ帰って養蜂をやろうと思う。 僕らのうちで誰が一番痛い針に刺されることになるだろうね」。 これはホームズがロンドンでの探偵業を引退した後、サセックスで「養蜂」を営む事を踏まえたセリフで、面白いパスティーシュにはこんな気の利いた会話があると私は常々思っているのです。 「消えた婚約者」はサセックスに引退したホームズの所へ、突然、若い女性が調査を依頼しにやって来ます。 彼女は「失踪した婚約者を捜して欲しい」と懇願するのです。 本パスティーシュは、消えた婚約者の謎解きも見事ですが、最後に分かる「若い女」の正体がとても面白いのです。 私は「パスティーシュって、こうでなきゃ!」と思わず喝采を叫んでしまいました。 本作「シャーロック・ホームズ 知られざる事件」のお薦めは、最後の「消えた婚約者」であります。 これは探偵小説好きなら、誰もが感激する話だと思います。 「マスグレイブ館の島」 「柄刀一」著。 光文社。 物語は現代。本小説が出版された2000年の話です。 主人公は「わたし」こと「一条寺慶子」。 両親を事故で亡くし、イギリスの「アガサ伯母さん」に引き取られ暮す、高校を卒業したばかりの女の子です。 伯母と共にロンドンの「アビ・ハウス7階」にあるホームズ親睦団体「英国・シャーロック・ホームズ・ソサエティ」に勤めています。 ある時、彼女は「ノーフォーク沿岸の島」へ招待されます。 高名なシャーロッキアンで、世界的大企業「ゴールドバーグ・松坂・テクノロジー」の創業者「松坂松太郎」の70歳の誕生日を祝う催し物がそこで行われるのです。 島にはコナン・ドイルの正典「マスグレイブ家の儀式」から付けられた「マスグレイブ館」が建っており、これから起こる謎を解いた者には「十万ユーロ」の賞金が与えられると言うのです。 「シャーロック・ホームズ・ソサエティ」から選ばれたのは、「わたし」、彼女の祖母代わりの老女「筧(カケイ)フミ」、「女ホームズ」の異名を持つ23歳のドイツ娘「クリスチアーネ・サガン」の三人でした。 しかし、そのシャーロキアンの親睦イベントで、彼女たちは連続殺人事件に巻き込まれてしまうのでした。 ドイルの正典「マスグレイブ家の儀式」は、ホームズが探偵を始めて3番目の事件です。 サセックスの名門「マスグレイブ家」に代々伝わっていた「謎の詩」にホームズが挑戦する物語です。 こうです。 「そは誰のものなりしや?去りし人のものなりき。 誰のものにすべきや?来るべき人のものに。 月はいつ?最初より第六番目。 太陽はいずこに?樫の木の上。 影はいずこに?楡の木の下。 何歩数えしや?北へ十歩、また十歩。 東へ五歩、また五歩。南へ二歩、また二歩。西へ一歩、また一歩。かくして下へ。 われら何を与うべきや?われらのものすべてを。 何故に与うべきや?信じて託する故に」 本作「マスグレイブ館の島」は、その正典にある矛盾を「新解釈」する話にもなっています。 「正典にある矛盾」をネタにしたホームズ・パスティーシュは意外と多いのです。 本物語には最後に「アッと驚く大仕掛け」が用意されており、これはシャーロキアン向けと言うより、「島田荘司好き向け」だと思いました。 推理小説家「島田荘司」の作品も、この「アッと驚く大仕掛け」が多いのです。 私は思わず「水晶のピラミッドかいっ!」って突っ込んでしまいました・・・。 ちなみに、本作は「慶子さんとお仲間"探偵団"シリーズ」第1弾との事です。 きっと「島田荘司ファン」には面白い小説だと思います。 「推理と論理 シャーロック・ホームズとルイス・キャロル」 「向井惣七」著。 ミネルヴァ書房。 ホームズ・パスティーシュとは端から思っていませんでしたが、同じ「19世紀末」に生きた(一人はフィクションの人物ですが)二人を、考察している本だと思って読んだのですが、全然違いました。 これは作者が「ホームズ」と「キャロル」を使い「自分の書きたい論理学の事を書く」という、私の一番苦手なタイプの本でした・・・。 「論理学」が好きな人には面白いかも知れません。 「シャーロック・ホームズのSF大冒険(上)」 「マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ」編。 「日暮雅通」監訳。 河出文庫。 本巻「上」は「過去のホームズ」という分類で、みな「19世紀末のホームズ」を描いています。 つまり原作通りの「ヴィクトリア朝」のホームズです。 とは言え「SF大冒険」という「大きな括り」のパスティーシュ集なので、「SF」や「パロディ」の短編ばかり集められています。 収録されているのは・・・、 【第一部 過去のホームズ】 ジョージ・アレック・エフィンジャー「マスグレーヴの手記」、マーク・ボーン「探偵の微笑み事件」、ウィリアム・バートン&マイケル・カポビアンコ「ロシアの墓標」、ヴォンダ・N・マッキンタイア「"畑のステンシル模様"事件」、ローラ・レズニック「行方不明の棺」、マーク・アーロンスン「第二のスカーフ」、フランク・M・ロビンスン「バーバリー・コーストの幽霊」、ブライアン・M・トムセン「ネズミと名探偵」、ディーン・ウェズレイ・スミス「運命の分かれ道」、ジョン・デチャンシー「リッチモンドの謎」、リーア・A・ゼルデス「サセックスの研究」。 「マスグレーヴの手記」は、正典「マスグレイブ家の儀式」の依頼人が語る「意外な事実」です。ホームズは「フー・マン・チュー」と出会うのです。 「探偵の微笑み事件」は、「不思議の国のアリス」のモデルになった「アリス・リデル」が依頼人で登場します。 「ロシアの墓標」は、モリアーティの論文「小惑星の力学」とツングース隕石が絡む話です。 「畑のステンシル模様事件」は、ミステリーサークルの謎を解きます。 「行方不明の棺」は、吸血鬼とホームズ。ドラキュラ伯爵がまた悪者で登場しています。 「第二のスカーフ」は、ホームズの所へ「宇宙人」が殺人事件の調査依頼にやって来ます。 「バーバリー・コーストの幽霊」は、「アイリーン・アドラー」の妹が登場します。アイリーン・アドラーとはホームズが唯一「あの女(ひと)」と尊敬を込めて呼んだ犯罪者で、本作は正統派パスティーシュになっていました。 「ネズミと名探偵」は、降霊術会に「ドラキュラ伯爵」「ジキル博士」「不思議の国のアリス」が集まるコメディです。 「運命の分かれ道」は、タイムマシンとタイタニックが題材となっています。 「リッチモンドの謎」もタイムマシンが登場。これは「ジョージ・パル」の古典SF映画「タイム・マシン(1959)」を観ていると面白いです。 「サセックスの研究」は、引退し養蜂生活を送るホームズに起こった奇妙な話です。 面白かったのは私がドラキュラ好きなので、「行方不明の棺」でしょうか。 「シャーロック・ホームズのSF大冒険(下)」 「マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ」編。 「日暮雅通」監訳。 河出文庫。 「SFのホームズ・パロディ」を集めた「下巻」です。 前巻「過去のホームズ」の続きと、「現代のホームズ」「未来のホームズ」「死後のホームズ」という分類で、収録されているのは・・・、 【第一部の続き、過去のホームズ】 ゲイリー・アラン・ルース「数の勝利」、ローレンス・シメル「消化的なことさ、ワトスン君」、バイロン・テトリック「未来の計算機」。 【第二部 現在のホームズ】 スーザン・キャスパー「思考機械ホームズ」、クレイグ・ショー・ガードナー「シャーロック式解決法」、ディヴィッド・ジェロルド「自分を造った男」、クリスティン・キャスリン・ラッシュ「脇役」。 【第三部 未来のホームズ】 ジャック・ニマーシャイム「仮想空間の対決」、ラルフ・ロバーツ「時を超えた名探偵」、ジョジーファ・シャーマン「シュロック族の遺物」、アンソニー・R・ルイス「不法滞在エイリアン事件」、バリー・N・マルツバーグ「五人の積み荷」、ロバート・J・ソウヤー「未来からの考察ーホームズ最後の事件」。 【第四部 死後のホームズ】 ジャニ・リー・シムナー「幻影」、マイク・レズニック「"天国の門"の冒険」。 「数の勝利」は、ホームズが「クローン製造機械」を使ったら、と言う話です。 「消化的なことさ、ワトスン君」は、また「不思議の国のアリス」がネタになっています。 「未来の計算機」は、19世紀のコンピュータの祖「ディファレンス・エンジン」とホームズです。 「思考機械ホームズ」は、現代のコンピュータとホームズです。 「シャーロック式解決法」は、コンピュータ研究所の3人がホームズ人格になってしまうコメディです。 「自分を造った男」は、ホームズ誕生秘話です。 「脇役」は、現代に登場したホームズが連続猟奇殺人犯を追いかけます。 「仮想空間の対決」は、電脳世界でのホームズとモリアーティの対決です。これはいかにも「SFホームズ」だと思いました。 「時を超えた名探偵」は、タイムマシンで様々な時代から事件調査を要請されるホームズが描かれています。 「シュルロック族の遺物」は、異星で異星人が「ホームズ」風に事件を調査します。 「不法滞在エイリアン事件」は、コンピュータのホームズです。 「五人の積み荷」は、これもコンピュータの「緊急保安プログラム」ホームズで、宇宙船で殺された5人の謎を解きます。 「ホームズ最後の事件」は、「シュレーディンガーの猫」と「何故宇宙に生命が存在しないのか」という「フェルミのパラドックス」についてホームズが解答を導き出します。 「幻影」は、コナン・ドイルが降霊会で「ホームズ再執筆」を決意した経緯が描かれます。 「"天国の門"の冒険」は、天国でホームズが「切り裂きジャック」を捜す話です。 面白かったのは(これは以前読んだ事がありました)「ホームズ最後の事件」と、コメディですが「シャーロック式解決法」です。 「シャーロック式解決法」は最後のセリフが決まっていました。 「御手洗潔 対 シャーロック・ホームズ」 「柄刀一」著。 原書房。 柄刀一は前述した「マスグレイブ館の島」の作者です。 やっぱ、この人「御手洗潔」が好きなんだなあ。 「御手洗潔」とは島田荘司が創った、日本の名探偵です。 収録されているのは・・・、 「青の広間の御手洗」「シリウスの雫」「緋色の紛糾」「ボヘミアンの秋分」の4つの短編と、「巨人幻想」の中編です。 しかし「御手洗潔 対 シャーロック・ホームズ」のタイトル通りなのは最後の「巨人幻想」だけで、「青の広間の御手洗」「シリウスの雫」は御手洗潔のパスティーシュ、「緋色の紛糾」(芦辺拓編パスティーシュ集〈贋作館事件〉にも収録されていました)「ボヘミアンの秋分」はホームズのパロディなのでした。 「巨人幻想」は、「どうやって19世紀末のホームズと20世紀末の御手洗潔を対決させるのだろう」と興味津々でしたが、見事にはぐらかされてしまいました。 本「御手洗潔 対 シャーロック・ホームズ」で一番面白かったのは、最後の「あとがき」でした。 これを「御手洗潔シリーズ」の作者「島田荘司」が書いているのです。 タイトルが「石岡和己 対 ジョン・H・ワトスン」。 「石岡和己」は「御手洗潔シリーズ」に登場する相棒で、ホームズでのワトスンです。 その二人が「書簡形式」で、本作の感想をそれぞれ述べていくのです。 最初は「さすがホームズさんです」「御手洗さんも見事です」と互いの探偵を誉め合っていたのですが、段々「でもホームズは」「いや御手洗も」と欠点を論っていき、最後は「だいたいワトスン先生は」「石岡君も」と大喧嘩に発展するのです。 これには大爆笑してしまいました。 と言うワケで、お薦めはこの「あとがき」なのであります。 「日本版 シャーロック・ホームズの災難」 「柴田錬三郎」他著。「北原尚彦」編。 論創社。 「シャーロック・ホームズの災難」は、昔あの「エラリー・クイーン」が編んだパスティーシュ集のタイトルとして有名ですが、本作はその「日本作家版」と言う事なのでしょう。 日本作家のホームズ・パスティーシュ集は、1990年に推理作家「新保博久」が編んだ「日本版ホームズ贋作展覧会」が有名ですが、このタイトルも1980年に推理作家「各務三郎」が編んだ「ホームズ贋作展覧会」(これは外国作家ばかり)から来ています。 どうやら、ホームズ・パロディ、パスティーシュ集には、タイトルも「代々受け継がれていく」伝統があるのかも知れません。 収録されているのは・・・、 【パスティーシュ篇】 中田耕治「日本海軍の秘密」、荒俣宏「盗まれたカキエモンの謎」、林望「『名馬シルヴァー・ブレイズ』後日」。 【パロディ篇】 北杜夫「銭形平次ロンドン捕物帖」、中川裕朗「ルーマニアの醜聞」、北原尚彦「殺人ガリデブ」。 【クラシック篇】 東健而「その後のワトスン博士」、稲垣足穂「黒い箱」、天城一「エルロック・ショルム氏の新冒険」、乾信一郎「ホームズの正直」。 【エロティック篇】 郡山千冬「全裸楽園事件」、砂川しげひさ「赤毛連盟」。 【ショートショート篇】 都筑道夫「ごろつき」、都筑道夫「にんぽまにあ」、加納一朗「『補星船業者の消失』事件」、夢枕獏「ゲイシャガール失踪事件」。 【異色篇】 柴田錬三郎「赤い怪盗」、山口雅也「カバは忘れないーロンドン動物園殺人事件(オリジナル版)」、山中墓(まね・下は土じゃなく手)太郎「怪犯人の行方」。 【新世紀篇】 横田順彌「真鱈の肝」、喜国雅彦「赤毛サークル」。 本作品集には「パロディ」が多かった様に思います。 良く言えば「軽く」、悪く言えば「軽い」のです。 面白かったのは、大昔ホームズ物語の少年向け翻訳をしていた「柴田錬三郎」の「赤い怪盗」でしょうか。 これは翻訳と称しつつ、結局全部自分で捏造してしまった珍作でした。 19世紀末ロンドンの商店街が、まるで「昭和初期の浅草商店街」みたく描かれていて可笑しいのです。 横田順彌の「真鱈の肝」も横田節全開の「ハチャハチャ」で、落語みたいで面白かったなあ。 本著はパロディ好きな方には、良いかも知れません。 「シャーロック・ホームズの栄冠」 「北原尚彦」監訳。 論創社。 上の「日本版 シャーロック・ホームズの災難」の姉妹本で、こちらは日本語未訳の(一部違いますが)外国作家パロディ・パスティーシュ集となっています。 収録されているのは・・・、 【第1部 王道篇】 ロナルド・A・ノックス「一等車の秘密」、E・C・ベントリー「ワトスン博士の友人」、アントニー・バウチャー「おばけオオカミ事件」、アントニーバークリー「ボー・ピープのヒツジ失踪事件」、A・A・ミルン「シャーロックの強奪」、ロード・ワトスン(E・F・ベンスン&H・マイルズ)「真説シャーロック・ホームズの生還」、ロバート・バー「第二の収穫」。 【第2部 もどき篇】 ロス・マクドナルド「南洋スープ株式会社」、アーサー・ポージス「ステイリー・ホームズの冒険」、アーサー・ポージス「スタジオエイトリー・ホームズの新冒険」、アーサー・ポージス「ステイとリー・ホームズと金属箱事件」、ピーター・トッド「まだらの手」、ピーター・トッド「四十四のサイン」。 【語られざる事件篇】 アラン・ウィルスン「疲労した船長の事件」、オーガスト・ダーレス「説教された鵜の事件」、ギャヴィン・ブレンド「コンク・シングルトン偽造事件」、S・C・ロバーツ「トスカ枢機卿事件」。 【第4部 対決編】 アーサー・チャップマン「シャーロック・ホームズ対デュパン」、作者不明「シャーロック・ホームズ対 勇将ジェラール」、ドナルド・スタンリー「シャーロック・ホームズ対007」。 【第5部 異色篇】 キャロリン・ウェルズ「犯罪者捕獲法奇譚」、ロバート・ブロック「小惑星の力学」、ベイジル・ラスボーン「サセックスの白日夢」、ビル・プロンジーニ「シャーロック・ホームズなんか恐くない」。 「日本版 シャーロック・ホームズの災難」と同様、これもパロディに重点が置かれている様な気がしました。 面白かったのは、ちょっとした日常をスケッチした「ワトスン博士の友人」、ホームズが小さな子供と絡む「おばけオオカミ事件」、マザー・グースのパロディ「ボー・ピープのヒツジ失踪事件」、あの「ロバート・ブロック」が書いた「小惑星の力学」です。 シャーロック・ホームズを捩った「ステイトリー・ホームズの三作品」も面白かったです。「バカミス版(おバカなミステリー)ホームズ・パロディ」って感じでしょうか。 探偵小説の祖と言われるポーの「オーギュスト・デュパン」が、ある日突然ホームズのアパートに訪ねて来て、「君は私の真似ばかりじゃないか」と詰め寄る話にも笑いました。 冷静を装いつつもビビっているホームズが可笑しいのです。 本作品集はホームズ・パロディ、パスティーシュを今まで何冊も読んできて「他に何か無いかなあ」と思っている方には、お薦めかも知れません。 と言うワケで今回はここまで。 「シャーロック・ホームズのSF大冒険」も、北原尚彦が編んだ「日本版 シャーロック・ホームズの災難」「シャーロック・ホームズの栄冠」も、分類され作品が紹介されていました。 ホームズのパロディ、パスティーシュは、幾つかのパターンに分けられそうです。 すぐに思いつくのは、 1)真面目なパスティーシュ(おかしな言い方ですが)。 2)「語られざる事件(正典でタイトルだけで中身を語られていない事件)」を扱ったモノ。 3)ホームズ譚の他の登場人物を主人公にしたモノ。 4)ホームズがヴィクトリア朝の有名な人物(史実でもフィクションでも)と出会うモノ。 5)正典の前か後を描くモノ(or正典で書かれなかった真実)。 6)ホームズを茶化した(愛を持って)パロディ。 でしょうか。 3)で一番多いのはもちろん「ワトソン博士」ですが、二番目はホームズの宿敵「モリアーティ教授」でありましょう。 4)も「フロイト博士」「コナン・ドイル本人」「ルイス・キャロル」「夏目漱石」等々の史実組から、「ドラキュラ伯爵」「ジキル博士」「チャレンジャー教授」「ネモ船長」等々の架空組まで、実に魅力的なジャンルです。 この「パターン」は少し考察してみる価値がありそうです。 「太陽の下に新しきものなし、さ。 みな、いつか以前におこっている」 (緋色の研究)より。 |
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