ダリオ・アルジェントの「サスペリア」は最高のホラー映画です。 1977年のイタリア映画です。 この映画は「ケレン味」でいっぱいであります。 「ケレン(外連)」とは、「本筋とは関係ない些末な部分」とか「はったり、思わせぶりな演出」とか言う意味であります。 私はこの手の「ケレン味」がある映画が大好きなのでした。 物語は、アメリカのニューヨークから一人の美少女「スージー(演じるはジェシカ・ハーパー)」がドイツの名門「フリブルグ バレエ学院」に留学してくるところから始まります。 そのバレエ学院で起こる数々の猟奇殺人・・・。 その背後に見え隠れする「悪魔崇拝者」たちの存在・・・。 この映画、まず最初のシーンからして「ケレン味」でいっぱいです。 ヒロイン「スージー」が降り立ったドイツの空港到着ロビー自体がもはや「異常な演出」で、初っ端から監督はカマしてくれます。 そのロビーの照明が「真っ赤」なのです。 なんで? いや、その理由は「特にない」のでした。 凄いっ! そして、その空港ロビーを出てみると、「必要以上に」激しい豪雨。 必死になってヒロインはタクシーを捕まえます。 時は深夜。土砂降りの雨の中を進むタクシー。 乗ったタクシーの運転手もこれまた「必要以上に」不気味な男です。 ヒロインが始めて訪れた異国の地をタクシーは進んでいきます。 運転手と乗客席の仕切りガラスに「怪しい男の姿」が数秒映し出されますが、これに関しても何の説明もありません(一説によると監督のダリオ・アルジェントが映っているのだとか)。 車の中から見る公園の噴水も「必要以上に」水を噴き出しています。 すると、突然インサートされる道路脇の「排水溝」。 もの凄い勢いで大量の水を吸い込んでいます。次の瞬間、さらにカメラはその「排水溝の穴」に超アップ。 当然、映画を観ている人は「お。その排水溝に何かがあるのか!?」と思いますが、何もないまま映画は進みます。 凄いっ! ヒロインが留学したバレエ学院の中には「明らかに怪しい」人物達でいっぱいです。 威圧的な笑顔がいつも顔に張り付いている女教師「タナー」、一見穏やかそうに見えながらも確実に裏がありそうな「ブランク副校長」、雑用係で不気味な容貌の巨漢「パブロ」、謎のオブジェを持つ太った中年の料理女と、彼女にいつも寄り添って決して笑わない子供、そして盲目のピアノ弾き「ダニエル」。 その「ダニエル」が殺されるシーンも素晴らしい。 「盲目のピアノ弾き」という設定からして、もはや「ケレン味一杯」なのですが、彼が惨殺されるのは、深夜、学院から彼の自宅に帰る途中の人一人居ない広場の真ん中での事。 異常な連続殺人が続き、「ピアノ弾き」は恐怖に怯えています。 そしてある夜。 盲導犬を連れ、その広場に差し掛かる「ピアノ弾き」。 彼の犬が異常を感じて激しく吠え出します。 カメラ、途端にロングサイズ。 怯えている「ダニエル」と彼の盲導犬以外にはその広場にいる者は誰一人いない事を観客に見せます。 しかし、なお吠え続ける彼の犬。怯える「ピアノ弾き」。 そして、次の瞬間。 突然、盲導犬は主の首を噛みちぎります。 何が起こったのか分からないまま絶命する「ピアノ弾き」。 これに関する説明も映画の中では一切成されません。 凄いっ! 何かありそうで何もない、でも「あれってやっぱり・・・」とか「アレって本当は・・・」と後から思わせる演出が私はとても好きです。 誰だかが言ったセリフに(押井守監督だったかな?)「一度観ただけで全部分かってしまう映画はツマラナイ」というモノがありますが、私もその通りだと思うのです。 観れば観るほど「奥が深くなる」もしくは「奥が深い様に見える」タイプの映画に私はとっても引かれるのでした。 他の映画で言えばキューブリックの「2001年」とかタルコフスキーの「ストーカー」、などです。 当然、「何回か観なきゃ分からない映画は良くない」と言う方もいると思いますが、このタイプの映画は一度だけ観た人にも絶対「何か」を残すものなのです。 またこの映画、原色の赤や青、そして緑で構成された「美術設定」や「ライティング」も素晴らしい。良く言えば「スタイリッシュ」。悪く言えば「奇をてらっているだけ」。 もちろん私は前者の意見なのであります。 メイキングを見ると「ディズニーのアニメーション」や「ドイツ表現主義」を参考にしたのだとか。 さらに音楽の「ゴブリン」も素晴らしい。 本作品は、恐いシーンに「恐ろしげな音楽」を流すのではなく、反対に「シンプルで童謡っぽい音楽」の方が「本当に恐い」というのを実践し、実証して見せた始めてのホラー映画でもありましょう。 多分。 ちなみに、日本では後年「サスペリア2」というモノが劇場公開されていますが、これは実は「サスペリア(1977)」の2年前1975年に製作されたモノであり、日本で「サスペリア」がヒットしたため、「そのPART2」として公開されたのでした。 お話は「サスペリア」とは全然関係ないのですが、これはこれで傑作ホラー映画だと私は思っているのでした。 |
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