「高畑勲」のアニメーション映画「おもひでぽろぽろ(1991)」の中に、こんなシーンがあります。 小学5年生の「岡島タエ子」が隣のクラスの「広田秀二」に、こう訊ねられるのです。 「あ、雨の日と、曇りの日と晴れと、ど、どれが一番好き?」。 タエ子は「5組」、広田は「4組」。 彼は学年の野球でもピッチャーで活躍する人気の男の子です。 そんな広田はタエ子の事が好きになったのです。 どこの時代にも「お節介好き」はいるモノです。 その事を「4組」の女子が「5組」のタエ子にわざわざ伝えに来るのです。 それを知り狼狽えるタエ子。 広田もタエ子も消極的な性格で、二人はまだ互いに話をした事すらないのです。 本作、小学生のタエ子のエピソードは「1966年」と設定されています。 そんな中、タエ子と広田は学校帰りの道端でバッタリと出会ってしまうのです。 広田は「何か話さなきゃ」と焦ります。 そして彼が真っ赤になりながらも苦労して発した台詞が、先の 「あ、雨の日と、曇りの日と晴れと、ど、どれが一番好き?」。 だったのです。 そんな時に訊く様な事ではありません。 もちろん最初に交わす話でもありません。 しかし、タエ子は少し逡巡し俯きながらも、「くも・・・曇り」と応えるのでした。 広田の頭の中でキャッチャーミットにボールが「スパン」と決まります。「ストライク!」のイメージカットです。 次の瞬間、緊張していた彼が「あっ、同じだあ!」と破顔して言うのでした。 今まで話した事がなくも互いに惹かれ合う様になっていた二人の、一番最初に心が通った瞬間でした。 この場面の演出が上手いのは、「同じだだあ!」の台詞の後からNHK朝の連続ドラマ「おはなはん」のテーマ曲が掛かる事です。 「おはなはん」は劇中の「1966年」に大ヒットしていた純愛ドラマでした。 「高畑勲」の音楽の使い方は、いつ観ても見事です。 彼の演出は手堅く、ここから二人の恋愛話が展開する様な「余計な事」はせず、単に「子供の時、そんな事もあったよなあ」と昔を懐かしむ「27歳のタエ子」の姿に戻すのでした。 「おもひでぽろぽろ」の中で私が一番好きなシーンです。 で、です。 今回は私の好きな「天気の話」なのであります。 まず「季節」の話をします。 汗っかきの私は「夏」がとても苦手なのです。 ちょっと歩くだけでも全身から汗が噴き出し、人と会う度「あれ?雨降ってた?」と訊かれるのです。 歳を取ったせいか最近はそうでもないのですが、夏の青空に大きく広がる入道雲を見ると、いつもウンザリしていたモノでした。 私の「夏嫌い」は日本特有の湿度も関係しているのでしょう。 湿度さえ高くなければ夏も「ちょっと好き」だと思うのです。 私の大好きな「戸川純」の名曲「隣の印度人」にも、これは日本に暮らすインド人を歌ったモノですが、「日本の夏は蒸すけど涼しい」という逆説的で傑作な歌詞があるのでした。 「湿度嫌い」の私は夏でなくても、春でも秋でも「人いきれでムッするとする満員電車」に乗ると、それでも汗だくになってしまうのです。 でも「湿度嫌い」と言っても、矛盾するかも知れませんが、「雨は好き」なのです。 満員電車や土砂降りの中の外出は最悪ですが、家の中で過ごす「雨の日」は気分が落ち着いて良いのです。 好きなDVDを観たり、ネット三昧したり、読書するには「雨の日」が最適だと思うのです。 これは雨そのものよりも、「雨音」が好きなのかも知れません。 一番嫌いなのは、タエ子には申し訳ないのですが「曇りの日」なのでした。 重く垂れ込めた曇り空を見ると、気持ちもどんより暗くなってしまいます。 明るく前向きな気持ちは何処かに消え去り、ネガティブで後ろ向きな気持ちになってしまいます。 考えなくても良い「私の人生、今まで何だったろう」とか「あんな事しなきゃ良かった」とか「あの時のアイツの台詞はそおいう意味だったんだ」なんて事を考えてしまうのです。 夏は暑いから嫌い。 転じて晴天は苦手。 雨は条件付きでちょっと好き。 曇りの日は大嫌い。 私が好きなのは寒い「冬の日」なのです。 「暑さ」には弱いのですが「寒さ」には強いのです。 そして「雪が好き」なのでした。 私が住む地域には滅多に雪が降らないのですが、それでもたまに降ると大喜びしてしまいます。 雪が降ると真夜中でも表に飛び出してしまい、用事もないのに近所中を歩き回ったりするのでした。 昔、学生時代ですが、早朝雪が降っているのを見つけ、近所の友人宅に押し掛け、さっそく朝から「雪見酒」を始めた事もありました。 また「冬」が良いのは、大好きな「コート」を着られる事です。 「マフラー」を巻ける事です。 「コートとマフラー」、私はこの格好が大好きなのです。 じゃ一番好きなのは「冬の雪」かと言うと・・・違うのです。 私が一番大好きなのは「風の日」なのでした。 普通の「風」なら一年中いつでも吹いているでしょう。 しかし、私が好きなのは「強風の日」なのです。 「コートとマフラー」が好きなのも、それが強い風でひるがえったり、なびいたりするのが「心地良い」「格好良い」と思っているのです。 大昔、私の幼少時代の写真を見ると「風呂敷」を背中に被っています。 これは決して「泥棒」の真似をしているのではなく・・・、「ヒーロー」の格好をしているのでした。 昔のヒーローは、実写でもアニメーションでも皆、マントを羽織っていたモノでした。 マントを風に大きくひるがえさせる姿が、当時の「ヒーロー」の象徴だったのです。 白黒時代のアニメ主題歌「パーマン」では「♪真っ赤なマントをひるがえし♪」と歌い、「サイボーグ009」でも「♪赤いマフラーなびかせて♪」と謳われていたのでした。 また、「強風好き」が転じ、私は「台風」も好きなのでした。 台風の話は被害に遭われた方も多いので、あまり軽々しく出来ないのですが、これも私の好きな「天候」の一つなのです。 退屈な日常が「ケ」だとすれば、台風は特別の日に変える「ハレ」だと思うのです。 特に子供の頃の「台風」には、とてもワクワクしたモノでした。 「台風」が持つドラマ性は創作世界にも多くの物語を残して来ました。 特に映像面「映画」において、です 「台風と映画」の話は別にエッセイで詳しく書こうと思っているのですが、パッと思い浮かぶモノをいくつか挙げると。 「相米慎二」の「台風クラブ(1985)」は邦画の傑作です。 夏休みに忍び込んだ学校で、台風に巻き込まれてしまう中学生たちの一夜の物語。 オープニングの深夜のプールサイドで起こる彼ら狂態は、「バービーボーイズ」の名曲「闇夜でDANCE」と合わせ、今でも私の心に残る名場面であります。 「台風と映画」は「SF」にも、いくつもの傑作を残しています。 「ジョン・スタージェス」の「宇宙からの脱出(1969)」は、「2001年 宇宙の旅(1968)」や「アンドロメダ・・・(1971)」等と並ぶ「ハードSF映画」の名作だと思います。 宇宙で帰還不能になった宇宙船を救出しようと、新たなロケットを打ち上げようとした時、巨大台風(ハリケーン)がやって来るのです。 彼らはこの不測の事態にどう対処したのか・・・。 「スティーヴン・スピルバーグ」の「ジュラシック・パーク(1993)」も、「台風」から始まる大惨事の話でした。 アニメでも「押井守」の「機動警察パトレイバー the Movie(1989)」は「台風とSF」では忘れられない傑作です。 ここでも「台風」が大犯罪のトリガー(発端)となっていました。 私が「強風」その究極の「台風」に惹かれるのには、もう一つの理由があります。 それは私が生まれたのが「台風の朝」だったからなのでした。 昔よく母親から聞かされた話です。 再び最初の「おもひでぽろぽろ」の話に戻ります。 「おもひでぽろぽろ」はとても良く出来たアニメーション映画です。 監督「高畑勲」の演出力が「これでもか」と発揮された映画だと思います。 小学5年生の11歳のタエ子と、OL生活に息詰まった27歳のタエ子のエピソードが交互に紹介されていきます。 それは実に巧みに構成され、互いが互いを補強・補完し合い、総体で「11歳のタエ子は27歳のタエ子に伝えたい事があったのだ」と結論します。 私はこれに鳥肌が立つほど感動したのでした。 11歳のタエ子のエピソードが、それから「16年経った」27歳のタエ子のエピソードに「結実する」という、とても素晴らしい構成・脚本だと思います。 エンディングシーンの「11歳のタエ子」と「27歳のタエ子」が、一つの同じ画面の中で一緒になる場面には本当に震えたモノでした。 が、しかし、この映画は「失敗作」、面白くないアニメーションだと思ったのも事実でした。 もちろん、「高畑勲」は端から「面白いアニメーション映画」を目指していなかったのでしょうが、それはそれで「問題」です。 小学生のタエ子のエピソードが魅力的なのに対し、大人のタエ子の山形の農家のエピソードが「あまりにも重すぎる」のです。 「都会生活に疑問を感じ始めた」タエ子が、「田舎の農家に嫁ごう」とする結論も、あまりにも「単純過ぎる」と思うのです。 物語を最終的に社会問題に転化するいつもの「高畑勲の悪い癖が出たなあ」と思うのでした。 私は本作を観る度に、いつも「11歳のタエ子だけで映画を作れば良かったのになあ」と残念に思うのです。 蛇足ながら私の「高畑勲」劇場アニメーションのベスト3は、 1)太陽の王子 ホルスの大冒険(1968)。 2)じゃりン子チエ(1981)。 3)平成狸合戦ぽんぽこ(1994)。 なのであります。 好きな天気の話をするつもりが、結局「高畑勲」で始まり「高畑勲」で終わっちゃいました。 ま、いっか。 |
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