SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.148
「消えたプリンセス」
について

(2013年7月14日)


任天堂の「ファミリーコンピュータ」が発売されたのが「1983年7月15日」。
つまり「ファミコン」が発売されてから、今年(2013年7月15日)で、ちょうど「30年」経つのだそうです。

早いなあ。信じられないなあ。私の30年って一体何だったんだろう・・・、なんて事ぁ置いといて。

「消えたプリンセス」の話なのであります。
略して「消えプリ」。



「消えたプリンセス」は「1986年12月20日」に「イマジニア」から発売された「ディスクシステム」用のファミコン・ゲームです。
価格は「5,000円(税抜き)」、ジャンルは「アクションRPG」。

「メディアミックス」として、ゲーム本体以外に「副読本や手帳や地図」「テーマソングやラジオ・ドラマ収録のカセットテープ」が付いてきました。
テーマソングは当時、高校3年生の「富田靖子」が歌っていたのです。



お話は「ラビア王国」から16歳になる「プリンセス・キララ」が、国王の名代として来日した3日後、突如、失踪してしまうのです。
その際、王国に代々伝わる「五種の神器」も行方不明なってしまいます。

「30日後」に「ラビア王国」で「戴冠式」が予定されており、「五種の神器」は王位継承権の証として絶対に必要なのでした。

当然、彼女の失踪は「ラビア王国」と「日本政府」の国際問題に発展します。

「ラビア王国」は「オニノフグリ」の原産国です。
これは日本で猛威を振るう奇病「流行性痴呆症」に効く唯一の特効薬で、「キララ王女」と「五種の神器」を無事見つけ出さないと、その輸出を取り止めると言い出したのです。

「間毛曽根(まけそね)首相」は猪鹿町南山署「猿又署長」と共に緊急記者会見を開き、「キララ王女誘拐事件」捜査本部を立ち上げ、「鬼河原警部」をチーフに新米「小林もんた刑事」と事件解決のため動き出したのです。

「小林刑事」には、ソルボンヌ大学の「日本語学科」で3年間学んだ優秀な警察犬「小次郎丸」が付けられました。
「プリンセス・キララ」を誘拐したのは?
「ラビア王国」の秘宝「五種の神器」はどこにあるのか?
はたして「30日後」の「戴冠式」は無事に行われるのか?


捜査範囲はとても広く、南山署のある「猪鹿町」をスタートに、「らくがき町」「あげは町」「八長町」「某A町」の五つの町、その全ての建物に入る事が出来、住んでいる人はもちろん、町ゆく人にも話を聞く事が出来るのです。

「小林刑事」となったプレイヤーは、時々「鬼河原警部」の指示を仰ぎ、警察犬「小次郎丸」の協力を得て(動物にも話を聞かなきゃならないから)、証言やヒントを「聞き込み」しまくるのです。

本ゲームには体力に合わせ、所持金の概念があり、たまにアルバイトをして金を稼ぎ、肉屋で「コロッケ」を買ったり、病院で「治療」したりするのです。
また、泥棒や放火犯を捕まえて出世したり、時にはギャング団と撃ち合いもするのです。


本ゲームは「リアルタイム」でプレイが進行していきます。
つまり「3時間プレイ」したのが、まんまゲーム内でも「3時間経っている」のです。
これにより、昼間はやっていた店が、夜になるとマップが暗くなり、閉店したりするのです。
また、昼間は無かったモノが、夜になると現れたりするのです。

ファミコン・ゲームにおける「昼、夜の概念」は「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…(1988)」でさらに完成されていきました。
昼に訪れてみると全員死んでいる「廃墟」が、夜に再訪してみると「繁華街」になっている等々。「ドラクエ」が見事なのは、こおいったギミックが「大きなストーリィにちゃんと組み込まれている」事でした。

「消えプリ」では「リアルタイム」により、「30日後」の「戴冠式」までに「キララ王女」と「五種の神器」を見つけなければならない「クリア条件」となっていました。

「五種の神器」とは、「印籠」「ロザリア」「アムラビ法典」「アルパカの骨」「ビーズの腕輪」の5つです。
「何でそんな脈略の無いモノが、いや、それ以前に、そんな大切なモン持って日本に来た?」と、当時プレイした全員がTV画面に向かって突っ込んていた事と思います。


本ゲームでユニークなのは「流行性痴呆症」や「オニノフグリ」というアイディアです。

「流行性痴呆症」とは「パッパラパーになって町をフラフラ歩き出す」謎の伝染病で、罹り初めは「何となく巫山戯ているような状態」だったのが、1週目を過ぎると「ほとんど何を言っているのか判らなく」なり、やがて、顔から崩れて「パッパラパー」になるのでした。

「パッパラパー」って、今の人に判るかどうか心配ですが、それより、今なら絶対許されない物騒なネタだと思います。
ゲーム中「パッパラパー」になった住人に「オニノフグリ」を投薬して正気に戻し、そしてヒントを聞くという「それはそれで、ちょっと鬼畜」な使われ方をしていました。

でも、私が「消えプリ」が好きなのも、この「流行性痴呆症」と「オニノフグリ」があるからなのでした。
「早く事件を解決しないと、全員がパッパラパーになってしまう」という今日日のSF小説や映画の様な展開ではありませんか。


「消えプリ」には「メディアミックス」として「副読本やカセットテープ」が付いてくると前に書きました。
その中の「ラジオ・ドラマ」がよく出来ているのです。

特別機で成田国際空港に到着した「プリンセス・キララ」。
演じるは若く初々しかった頃の「富田靖子」です。
彼女の記者会見や、失踪した直後の「鬼河原警部」「小林もんた刑事」、警察犬「小次郎丸」のドタバタぶり。
秀逸な「ラジオ・ドラマ」になっていました。

そして、劇中に入る「オニノフグリのコマーシャル」の完成度も高いのです。


CM1。
「私は誰?ここは何処?」
「何言ってるのよ!ここは日本!あなたはパー!」
とまあ、こんな風に言われないために。
♪オニノフグリ♪
流行性痴呆症に良く効く。
♪オニノフグリ♪
ラビア国からやって来た。
♪オニノフグリ♪
「お薬屋さんでね」


CM2。
「じゃんけんポン!ぐーちょきパー!パッパラパー!」
「パーとくれば?」
♪オニノフグリ♪
流行性痴呆症に良く効く。
♪オニノフグリ♪
ラビア国からやって来た。
♪オニノフグリ♪
「お薬屋さんでね」



この三回繰り返す「♪オニノフグリ♪」の商品名連呼は、30年経った今でも歌えるほどなのであります。

捜査主任「鬼河原警部」のセリフも、今にして思えばとても象徴的です。
「とにかく一刻も早くプリンセスと五種の神器を無事見つけ出さないと、我が国へのオニノフグリの供給がストップされて、日本は『アホだらけの国』になってしまう!」

30年前「消えたプリンセス」は無事、王女を見つけて終わった事になっています。
しかし今、現実世界を見ると・・・結局、日本は「アホだらけの国」になっちゃったのかも・・・なんて思ったりなんかしちゃったりするのであります・・・。



「消えたプリンセス」は決して良く出来たゲームではありません。

ゲームを進めるのにも、曖昧なヒントしか与えられず、何をして良いか分からず、結局、手当たり次第に出来る事を次々と試していくタイプの、大昔の「ファミコン創世記」のゲームです。
当時プレイしていた人の半分以上は「クソゲー認定」をしたに違いありません。

難易度が高いゲームが良いゲームと勘違いされていた時代。
攻略本片手にゲームをするのが楽しかった時代。
そして、そのゲームの事を思い出すと、妙に懐かしさが蘇る時代。

ネットを調べてみると、今でも「消えプリ攻略サイト」を発見する事が出来ます。
星の数ほど出た「ファミコン・ゲーム」、その多くはすでに忘れ去られてしまった、と言うのにです。

時代を代表する「ファミコン・ゲーム」は、例えば「スーパーマリオブラザーズ」「ドラゴンクエスト」「ファミスタ」等々、いくつか挙げる事が出来ると思います。

「消えたプリンセス」は決して「ファミコン・ベスト10」に入る様な、いや「ベスト30」にすら入らないゲームかも知れません。

でも、私は今でも好きなゲームなのです。
それは私の贔屓目で「馬鹿な子ほど可愛い」と思っているから、なのかも知れません。


それがファミコンを作ってきた。
♪オニノフグリ♪
そんなゲームに熱中してた。
♪オニノフグリ♪
そして、あの頃が楽しかった。
♪オニノフグリ♪
お薬屋さんでね。





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