SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.149
「深淵を覗き込む時」
について

(2013年7月15日)


「二つの漫画」と「一つのテレビドラマ」の話をします。
いずれも昔、最初に観た時の衝撃が、今でも強く残っている私の好きな話なのでした。



最初は「水木しげる」の貸本時代の短編(24ページ)「やまたのおろち」です。

水木しげるの貸本時代ですから、昭和35年(1960年)ぐらいの作品でしょうか。

お話はこうです。


「やまたのおろち」の遺跡を探すため、正太は「ひい川(島根県出雲斐伊川)の上流」にいた。
が、数日、彷徨った挙げ句、見つからず諦めて帰ろうとした時、老人に呼び止められた。
「ここらの山には呼子がおるぞ。気をつけん けりゃいかん」
老人が山の頂から「おーい!」と叫ぶと「おーい!」と返事が戻ってきた。
「なんだ、山びこじゃないか」という正太に、「妖怪『呼子』が声を真似て叫び返しているのだ」という。
正太は興味に駆られ、老人の制止も聞かず山の中へ入って行った。

昼なお暗き森の中、道に迷い、何百年も人が入ってなさそうな場所を抜け、ついに妖怪「呼子」と遭遇する。
その姿は一見、蓑を被った普通の少年に見えた。
だが、その身体は地面から生えた木の根にあるのだった。
「いひひひひ」と気味悪く笑った妖怪「呼子」は、正太に大きなダイヤを差し出す。
「これ、ほしくない?」
思わず触った正太は、その中に小さくなって吸い込まれてしまう。

ダイヤの中は水でも空気でもない不思議な世界が広がっていた。
そこで正太は異界の連中に襲われ囚われてしまう。
「お前は、おろち様の生け贄になるのだ」
命からがら逃げ出した正太は、妖怪「呼子」に助けを請う。
「出してくれーっ!」
「おらぁの いうことを きくか」
「なんでも きく 早く出してくれ!」
「それには条件がある」
「なんでも いうことをきく 早く出してくれ!」
「じゃ、俺の体と代わってくれ」

こうしてダイヤから出た正太は、契約通り妖怪「呼子」の身体と入れ替わってしまう。
今まで「呼子」だった少年は二本の足を取り戻し、新しく「呼子」になった正太に近寄って言った。
「おれ 大正十三年から四十年ばかり 誰かこねえかと思って まっていたんだ」
少年は、妖怪「呼子」となった正太にダイヤを渡して説明する。
「これ『解放石』って いうんだ。
だれかが近づいてきたら この石を使って 肉体をすりかえるのだ」
「そうすると それまで おれは『呼子』になっているのか・・・」
「そうだ 『おーい』と誰かがさけんだら 『おーい』と呼び返して ものずきな子供がくるのを まつのだ」


本作のラストは、深い森の中の絵に、物悲しいナレーションで終わります。
だれもゆかない深山に 彼は今でも子供が迷いこんでくるのを まっている・・・



二番目はTVドラマ「ミステリーゾーン」、原題は「トワイライトゾーン(The Twilight Zone)」です。

「オリジナル」は1959年から5年続いた一話完結のシリーズでした。
その「リメイク」が1895年から4年間作られ、その中の「E.ウィザースプーンの奇妙な事件(1988)」がとても面白いのです。

お話はこうです。


ある日、精神科の「ジェレミー・シンクレア」医師は「一人暮らしのエドガー叔父が最近おかしい」と、彼の姪「シンシア」から相談される。
彼女の叔父は、最近狂ったようにゴミ箱を漁ったり、見知らぬ人を強請ったりして、大量のガラクタを地下室に集めているという。
道行く乳母車から、赤ん坊の哺乳瓶を奪った事もあるという。
警察沙汰になる前に、ぜひ叔父を一度見て欲しいと。

翌日。
シンクレア医師は「エドガー・ウィザースプーン」を地下室に訪ねてみる。
しかし、地下室のドアは頑なに開けず、反対に「金髪の小さな人形の頭は見なかったか?」とおかしな事を尋ねられる。
「何をするのかね?」と訊くと「君はサンタバーバラが大地震で水没しても良いのかね!」と怒鳴られ追い返される。
やはり、少々精神に問題があるようだ。重度の被害妄想かも知れない、と医師はウィザースプーンを憐れんだ。

その日の午後。
シンシアと話していた医師は、ラジオから流れてきた「今日サンタバーバラで小さな地震がありました」のニュースが、妙に気に掛かる。
再び、医師はウィザースプーンの地下室を訪ねる。
「奇妙な人だね」とドアから半身乗り出してウィザースプーンが言う。
「僕が?」と医師が部屋に入りたがって食い下がる。
「何でも首を突っ込みたがる」
「それで金を貰ってるんだ。知りたがり屋なんでね」
「やっぱり変だ。大抵の人は何も知りたがらない。それが一番いいのに」

かくして、シンクレア医師はウィザースプーンの地下室に招かれ、そこで信じられない光景を見る。

部屋中いっぱい、集められたガラクタが奇妙に組み立てられている。
時計や自転車のスポーク。人形の右手や革靴や小さなミラーボール。
子供の玩具や野球カードや折れた傘。
船の舵輪やコーヒーカップや昆虫標本や冷暖房のダクトやホース。
大小のバネや壊れた地球儀や額縁・・・、ありとあらゆるガラクタが、ある物はベルトで、ある物は歯車で、ある物は糸で機械的に連動し、ゆっくりと動いているのだった。
「こ、これは一体何です?」
「これ?」ウィザースプーンは始めて笑みを浮かべた。
これは世界をパッと消さないでおく唯一の物だよ!

数日後。
ウィザースプーンはマイアミに移住した。
地下室はガラクタごと、医師が大金を払い買い取った。
ウィザースプーンに聞こえていた「神の声」はもう彼には届かない。
それはシンクレア医師に移ったのだ。
「7時13分までにピンポン玉を手に入れなくっちゃ」
狂ったようにゴミ箱を漁るシンクレア医師。
「え?今度はタンバリン?」
彼は神に捕らえられた。世界の均衡を守るために・・・。


「ミステリーゾーン」で驚くのは「30分番組」という事です。
一切の無駄が無い、凝縮され濃厚なドラマがあるのでした。



三番目は「月刊コミックビーム」に連載されていた、「桜玉吉」の「幽玄漫玉日記」です。

漫画家「玉吉」と、その仲間たちの「面白可笑しく」潤色されたレポルタージュ・ギャグ漫画で、1998年7月8月号に前後編で発表された「虫いろいろ編」が忘れられないのです。

お話はこうです。


映画「スターシップ・トゥルーパーズ(1997)」を観た帰り、玉吉は底知れぬ危機感を抱いていた。
以前、玉吉たちは「魚星人」撃退のため「魚釣り」に出撃した事があった。
それが今度は「昆虫星人」が攻めて来るのだ。
かくして、「強化研修蟲旅行」が発動、計画・実行された。
それは伊豆の山中にて「熾烈な昆虫戦闘」を行い、心身共にを鍛え直すというモノであった。
単なる「ぶらり伊豆のんびり虫とり温泉旅行」ではない。

玉吉のステップワゴン「アガペー号」で一路、伊豆へ。
道中、彼は最近読んだ「京極夏彦」の妖怪小説「塗仏の宴」の話をする。
それによると伊豆は、妖怪がひしめく恐ろしい場所だという。
中でも「しょうけら」、別名「しし虫」には注意が必要だ。
その妖怪は深夜になると家の屋根に登り、部屋の中を覗き込み、人の隠された悪事を逐一記録するという。
それを閻魔様に報告して、その人の命を縮めるのだという。

さらに玉吉は「蟲戦闘」の敗者は宿ではなく、罰ゲームとして車中で一人寝て貰うという。
闘志を燃やす「玉吉」、担当「ヒロポン」、編集長「O村」、アシスタント「みげー君」。
「生き残れるのは、ゆるぎなき己の信念を持つ者のみ!!」

こうして伊豆の山奥で「蟲戦闘」が始まった。
決して単なる「虫捕り競争」ではない。
・・・結果。
ビリになったのは「玉吉」本人だった。

一泊する「伊豆の踊子」で有名な「湯ヶ野」に到着。
「しょうけら に気をつけてね」
玉吉を暗くなった駐車場の車中に残し、三人は宿に向かう。

あれやこれや考えて、自分の暗い将来を想像して夜も眠れず。
さらに、「夜の蟲大戦闘(大量の蚊)」が過酷さを増す。
こうなりゃ、宿の三人を驚かせてやろうと玉吉は決意する。

寝静まった夜の温泉街を抜け、三人の泊まっている宿屋へ。
明かりがついている一階の部屋を目指し、外から忍び足でゆっくりと近づいて行く。
「細心の注意を払い高鳴る鼓動を押さえつつ」
「そうっと中をうかがう」
「だらしない格好で賭けトランプなどしてやがる三人」
「こ奴ら どう おどかしてやろうかと思案するうち」
「ふと気づく。」
俺がしょうけら!


最後のコマは、宿屋の中、酒を呑みトランプに興じる三人と、それを窓越しに「間抜けな表情」で覗き込んでいる玉吉、なのでした。
私はこの「気がつけば、俺がしょうけら」というフレーズが好きで、当時よく口にしていたモノでした。



「深淵を覗き込む時、深淵もまた お前を覗き込む」とは19世紀のドイツの哲学者「リードリヒ・ニーチェ」の言葉です。
これには「怪物と戦う者は、自ら怪物と成らぬよう」という前段が付いています。

今回挙げた話は、いずれも「ミイラ捕りがミイラに」になってしまう物語です。
また、「好奇心は猫をも殺す」話でもあります。


触らぬ神に祟りなし。
仏ほっとけ
・・・、
神かまうな。

合掌。




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