「物理キーの理」。 「理」は「ことわり」と読みます。 「物理キー」とは、パソコンのキーボードや、「ガラパゴス携帯」いわゆる「ガラケー」のダイヤルボタンのように、「物理的」に押す事によって「ONする」スイッチの事を指しています。 その反対は、「ソフト・キー」です。 「タッチスクリーン」とか「タッチパネル」とか、「ソフトウェア」的にキーやボタンを再現してあります。 物理的に押してスイッチを入れるのではなく、画面上の「スイッチの絵」にタッチする事で「ONする」のです。 「スマートフォン」や「iPad」等の「タブレット型パソコン」、銀行の「ATM」が、この「ソフト・キー」です。 で、です。 私が「昔のSF好き」な事は、エッセイや他の文章で何回も書いてきました。 流線型のロケットに格好良さを感じ、ネジや歯車で出来ているロボットに魅力を感じるのです。 来たるべき輝かしい未来と、少しの禍々しさを感じさせる「SFメカ」に魅了されるのです。 それはロケット、宇宙船やSFメカの「操縦席」でも同様なのでした。 昔のSF映画やSFイラストに出てくるような、様々なスイッチに囲まれた「デコボコ・ゴチャゴチャした操縦席」が好きなのです。 私は流線型のロケットが好きですが、そんなシンプルな外見とは正反対の「デコボコ・ゴチャゴチャした操縦席」が好きなのです。 SF映画「スター・ウォーズ(1977)(日本公開は1978)」以降、スター・ウォーズを真似た宇宙船が流行っていた時期がありました。 プロップ(撮影用小道具)に詳しい方なら判ると思いますが、「スター・ウォーズ」の宇宙船は「市販のプラモデルの部品」を継ぎ接ぎして、あの「ゴチャゴチャ感」を作っています。 「市販のプラモデルの部品」を使って、見た事のない宇宙船を作るのは、作った経験のある方なら判ると思いますが、簡単そうに見えて、実はかなりの「造形スキル」や「造形センス」が必要です。 その証拠に、「スター・ウォーズ」を真似た他のSF映画の宇宙船には、ロクな物がないのでありました。 酷いのになると、「市販のプラモデルの部品」どころか、「プラモデルのランナー(部品をつなぐ枝)」がまんま貼ってある宇宙船もあったのです。 舐めんなよ。 あ、いや、今回のエッセイは、そんな事を書きたいワケではありません。 本題に戻します。 私はシンプルな流線型の宇宙船が好きですが、「造形スキル」と「造形センス」さえあれば、「ゴチャゴチャ」した宇宙船も好きなのです。 しかし、どっちにしても、その中の「操縦席」は、「デコボコ・ゴチャゴチャした」のが好きなのです。 つまり、私は「物理キー」で作られた操縦席が大好きなのでした。 しかし、最近のSF映画では、「シンプルでデザイン的な操縦席」が増えているような気がするのです。 そして、それが始まったのは「スタートレック」からだと、私は睨んでいるのでした。 スタートレックも、最初の「宇宙大作戦(1966〜69)」の頃は、まだ「デコボコ」としたスイッチ類がありました。 それが新スタートレック「ネクストジェネレーション(1987〜94)」になると、「デコボコ」したスイッチ類は消滅してしまったのでした。 「操縦席」「コックピット」「コンソール」が、シンプルでデザイン的になったのです。 「操作卓」はデコボコせず、フラットになったのです。 スイッチやボリューム類は、コンソール画面に表示された「単なる図形」に変わってしまったのです。 操縦席から「物理キー」を排除し、全面「ソフト・キー」になってしまったのです。 何たる事か。 こうなった理由ははっきりしています。 制作費が、セットを作る予算が無くなったからです。 また、「今さら物理キーでもないでしょう。ソフト・キーの方が未来っぽいでしょ」という時代の後押しもあったのでしょう。 「デコボコ」した操縦席を作るよりも、「スイッチやボリューム、図面を描いた絵」を、これを「リスフィルム」と言いますが、使った方が安くて便利だと判断されたのです。 「リスフィルム」を貼った台座の上には透明アクリル板を、下からは照明を当てて光らせる。 「シンプルでデザイン的にも格好良いじゃないか!」とプロデューサーが自慢げに大声を上げたのでしょう。 あー、つまんない。 「今日日、みんなタッチパネルでしょ?未来っぽいでしょ?」と予算の事だけ心配しているプロデューサーが目に見えるようです。 あー、ヤダヤダ。 確かに、その方がスマートで洗練された「未来の操縦席」なのかも知れません。 でも、でも、私は昔の「デコボコ・ゴチャゴチャした操縦席」「コックピット」「コンソール」の方が、断然、断然、格好良いと思うのです。 「トグルスイッチ」が並び、「タクタイルスイッチ」が列を作り、「ロッカースイッチ」がON、OFFを指定し、「ロータリースイッチ」が要所要所を占領し、足元には「レバー」が、側面には「スライドボリューム」が待ち構えている、そんな操縦席が大好きなのでした。 |
「トルグスイッチ」とは、レバーを「パチ、パチ」と上げたり下げたりしてON・OFFを切り替えるスイッチです。 「昔のSFメカ」でも、よく見かける一般的なスイッチです。 「ロッカースイッチ」とは、操作ボタンの両端をシーソーのように押す事で、ON・OFFを切り替えるスイッチです。 家庭の照明スイッチにも使われています。 「タクタイルスイッチ」とは、押しボタン式のスイッチです。 タクタイルとは「触った感じの」という意味で、「カチャ、カチャ」という操作感が特徴です。 「ロータリースイッチ」とは、回してON・OFFをするスイッチです。 スイッチの止まる位置を数カ所持たせて、「OFF」「ON弱」「ON中」「ON強」等の変化を付ける事も出来ます。 「レバー」とは、基部から伸びた軸棒の角度を変化させて、動力機関を操作するモノです。 「スライドボリューム」とは、つまみをスライドさせて、パワーのON・OFF、強弱を付けるスイッチです。 光源や音量の強弱によく使われます。 これら「物理キー」には、スイッチを入れる時の「パチ、パチ」とか「カチャ、カチャ」といった「操作感触」が大切です。 これらは偶然出ているのではなく、ちゃんと計算し設計して出しているのです。 この「操作感触」は、「クリック感触」とか「タクティル・フィードバック」とか呼ばれています。 当然のように、「物理キー」ではない「ソフト・キー」には、これらの「操作感触」が発生しません。 「音」もしないし、「感触」もないのです。 そこで「ソフト・キー」では、演出的にわざと「擬似的な」音や感触を付けたりするのでした。 また、この「物理キー」の「クリック感触」、「特徴的なスイッチ形状」には優れた利点もありました。 昔の航空機の操縦席は、その機に慣れたパイロットには、ある程度「盲牌」で飛ばす事も出来たのです。 操縦席の歴史を綴った「L.F.E.コームス」の「コクピット変遷史」にはこういう記述があります。 「イギリスのある指揮官は、乗員はコクピットで目隠しする機会を得るべきである、と主張した。 あらゆるレバー、スイッチ、つまみ、ホイールの位置を記憶し、それに馴染んでおくべきである、というのだ。 つまり、ブラインド・タッチである」。 現代の航空機には、ほとんど「物理キー」は無くなってしまいました。 アナログの計器類は駆逐され、液晶パネルにスイッチやツマミ、計器類を表示する「グラス・コックピット」となっているのです。 みんな「ソフト・キー」なのです。 もちろん、「グラス・コックピット」には利点があります。 限られたスペースの有効利用です。 同一画面上に、その都度合わせた必要な情報を表示する事が出来るのです。 「物理キー」時代より、簡単に様々な情報を呼び出せるのです。 でも、やっぱり私は、デジタル化された操縦席よりも、アナログな操縦席の方が好きなのです。 断然「格好良い」と思うのです。 また、「コクピット変遷史」から引用させて頂きます。 ちょっと長くなります。 「初期の計器は、時には糸を使って横滑りをみることもあったが、最も重要な『計器』は、スリット・ストリームを感じるパイロットの『頬』であった。 『頬に当たる風』は、その後20年間に渡って、極めて重要な『計器』となっていて、これがまた、オープン型コクピットが支持される理由でもあった。 コクピットが密閉されると、パイロットは内側あるいは外側に旋回する際の横滑りを感じるこの有益な『指示装置=頬』を奪われることになった」。 「なぜ、1930年代中期まで、空軍の戦闘機や複座機にオープン式コクピットが残されたのか? 多くの理由があるが、まずエンジンの臭いで調子がわかること、そして操舵に対する機体の反応を知るために、顔で直接風を感じるのを好んだことが挙げられる」。 「密閉式のコクピットは、高速化を目指す中で、抵抗を作り出す突起物や開口部を取り除く重要性の認識の高まりとともに、当時の大型機の多くで標準的な様式となっていった。 つまり『高速化』という性能上の必要からであって、パイロットの快適性を考えた末のものではない。 設計者や運航関係者にとって、まだまだ『快適性』などは考える必要のないものだった」。 タイプライターの格好良さは、たくさん並んだスイッチの複合体である事に尽きます。 究極の「物理キー」の集合体なのです。 「iPad」等の「タブレット型パソコン」には、確かにスマートで洗練されていますが、「ガジェット」「愛すべき道具」としての「ドキドキ感」を、私は全く感じられないのでした。 だし、俺なんか未だ「スマホ」も持っていないモンね。 |
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