SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.17
「日本の歌姫たち」について

(2002年2月9日)


独断と偏見と唯我と独尊で、私が選ぶ「日本三大歌姫」を発表させていただきます。
それは、「戸川純」「おおたか静流」「小川美潮」と、「濱田マリ」であります。
あ、四人だ。
えー、改めまして、私が選ぶ「日本四大歌姫」を発表します。
「戸川純」「おおたか静流」「小川美潮」「濱田マリ」、そして「上々颱風(西川郷子、白崎映美)」であります。
あ、六人だ。

何はともあれ、私は彼女らの歌を、そしてその歌声を断固支持するのでありました。
彼女らの歌に共通するのは「歌唱力の高さ」はもちろんの事、それぞれが「誰の真似でもない独自の世界観」を持っている事であります。

まずは「戸川純」。
かなり強烈な個性の歌い手なので、人によって好き嫌いがハッキリと別れると思いますが、私は昔から彼女が大好きなのでした。
彼女は歌手と同時に役者でもある事から、その唄う歌によってキャラクターを演じ分けるという非常に器用な「演技者ボーカリスト」です。
「無垢な童女」から「蓮っ葉な悪女」、そして「孤高の狂女」まで、歌によって様々な個性を見せてくれるのでした。
それはまるでいろいろな神を宿し「後神託」を下す「巫女」の様でもあります。
「戸川純」は一見すると「根暗で不思議キャラ」と思われるかも知れませんが、私は彼女の根底にあるのは「ピュア」だと思っています。
また、私が彼女の歌に感じるのは「ドラマチックな物語性」です。
それは彼女が「演技者」である事と、その特異な「歌詞の内容」にあると思います。
私は彼女の歌を聴くと「一つの短編小説」もしくは「一つの長編小説」を読んだような感覚に囚われます。デビューアルバムの「玉姫様」などはまるで戦前の「江戸川乱歩」の短編集の様ではありませんか。
お薦めは「ダイヤルYを廻せ!」というCDの中に収録されている「FOOL GIRL」。
「一人の気の狂った少女の根元的な孤独」を唄ったこの歌は、まるで一編の幻想小説を読んだかのような印象を残し、私を深く感動させてくれるのでした。

次は「おおたか静流」。
1990年の「AXIA」のコマーシャルソングに使われた「花」や、1992年の周防正行監督「シコふんじゃった」のエンディングテーマ「林檎の木の下で」などで、その華麗な歌声に初めてふれた方も多いのではないでしょうか。
彼女は何枚かポピュラーソングの「カバーアルバム」を出しており、そのいずれも私のお気に入りなのでした。
「みんな夢の中」や「戦争は知らない」「蘇州夜曲」など、オリジナル曲に匹敵、もしくはオリジナルよりも素晴らしいんじゃないかという歌がたくさんあります。
その高く、何処までも突き抜けるような真摯な彼女の歌声は、いつでも深く私の心の中に染み入って来るのでした。
お薦めは「REPEAT PERFORMANCE 2」というCDの中に収録されている「あんまりあなたがすきなので」。
フォークダンスの名曲「オクラホマミクサー」のメロディに合わせた彼女自身のオリジナル歌詞で「大正ロマンチック」な世界が展開、豊かでとても幸せな気分にさせてくれるのでした。

「小川美潮」は不思議な「浮遊感」のある歌声の持ち主です。
1980年に「チャクラ」というバンドのボーカルでデビュー。
当時、そのデビューアルバムの中の「福の種」という曲は、よくラジオの深夜放送でかかっていたものです。
その後、「仙波清彦」プロデュースの「はにわオールスターズ」などに参加し、ソロでも何枚もアルバムを出しています。
ちょっと「子供っぽい可愛い系」の声質なのですが、その頃唄っていた歌のタイトルを並べてみますと、「おちょーし者の行進曲」「いとほに」「ちょっと痛いけどステキ」「南洋でヨイショ」「私と百貨店」「ちゃーのみ友達スレスレ」「めだか」等々、「変なタイトルの歌」が多い事が分かると思います。
タイトル同様、歌も「ちょっと変」。
でも「変」だけど「優しく」、「変」だけど「温かい」音楽なのでした。
彼女の歌は、例えば、大人が読んでも面白い「ちょっと変な絵本」を読んでいるような感覚でしょうか。
また、非常に俗っぽく言えば「元祖癒し系」というカンジもします。
たくさんのコマーシャルソングも唄っていて、その声を聴くと誰もが「ああ、この人かー」と思うでしょう。
お薦めは「仙波清彦とはにわオールスターズ IN CONCERT」の中の「あいみん」。
いつ聴いても心が「ホクホク」し、楽しくなってくる名曲なのであります。

「濱田マリ」は90年代に「モダンチョキチョキズ」というグループでメインボーカルを務めていました。
最近ですとテレビのナレーションとか出演でその特異なキャラクターはお馴染みですよね。
前出の「はにわオールスターズ」が私の80年代の「マイ・フェヴァリット・ユニット」だとすれば、この「モダチョキ」は90年代の「マイ・フェヴァリット・ユニット」なのでした。
どちらにも共通するのは、個性的な大集団の「オーケストラ」であり、「演歌」から「ジャズ」、「ポップス」から「邦楽」「まで、ノンジャンルの「楽しければ何でもOK」という音楽ポリシーというところでしょうか。
「モダチョキ」の歌の多くは「シュール」にして「不可解」。
その歌詞のあまりの「無意味ぶり」に反対に「深遠な意味」がありそうな気がして、でも「やっぱり何もない」というシロモノで、ある種の「頭の中がグルグルとして、段々ワケが分からなくなっていく」様な、楽しいトリップ感覚が味わえます。
その中で「濱田マリ」の歌声は「元気」で「ハイ・テンション」、そして「痛快」で「ハッピー」。
聴いていると「良い意味」で「人生なんてどうでもいいんだー」「人生楽に生きればいいんだー」などと妙にウキウキした気分にさせてくれ、元気に生きていくパワーをいつも私に与えてくれます。
お薦めは「モダンチョキチョキズ ボンゲンガンバンガラビンゲンの伝説」に収録されている「有馬ポルカ」。
いきなり出てくる「阿弥陀如来を頭に埋め込んで光速で走るよ」という歌詞にブッ飛んで、最初に聴いた時にはとても感激したモノなのでした。

「上々颱風」で美しいハーモニーを聴かせてくれるのが「西川郷子」と「白崎映美」の二人です。
この二人の歌声のコンビネーションはとても素晴らしく、互いが互いを引き立てつつも、しっかりと自分の存在感をもアピールしているという、まったく希有な「二人組女性ボーカリスト」です。
その彼女たちの歌は、ある時は透明感のある美しい世界が展開し、ある時はアッケラカンとした愉快で蛮カラな人生賛歌が繰り広げられます。
1994年のスタジオ・ジブリ、高畑勲監督の「平成狸合戦ぽんぽこ」のメインテーマでも彼女らの歌声は際立っていたと思います。
また「上々颱風」は、リーダー「紅龍」の「三弦(三味線のルーツのような楽器)」を始め、「チャンチキ」などの鳴物や「篠笛(横笛)」「団扇太鼓(片手で持つ団扇のような太鼓)」が、独特のアジア民族音楽テイストをかもし出し、「初めて聴くのに何だかとっても懐かしい」曲が多いのも特徴なのでありました。
お薦めは「上々颱風 2」の中の「愛より青い海」。
この曲はちょうど海外へと向かう飛行機の中、広がるきらめく大海原と点在する雲を眼下に見ながら聴いたのですが、その時の印象が強烈で、この曲を聴く度にその時の情景がまざまざと思い浮かぶのでした。


私にとっての「歌姫」の条件とは、決して「歌が上手い」という事だけではありません。
それが例え「哀しい」歌であっても、「楽しい」歌であっても、「変な」歌であっても、必ず心の奥底に「何らかのメッセージが伝わる」歌を唄える人、それが「歌姫」の名に値すると思うのでした。
良い歌はいっぱいあると思いますが、いつまでも聴く人を魅了して止まない歌を唄える人、それが「歌姫」なのであります。
多分。


と言うわけで今回は少々長い文章になってしまいました。
やっぱり当初の予定通りに「三大歌姫」ぐらいにしておけば良かったかな。
でも本当は、「原由子」と「ジッタリン・ジン(春川玲子)」の二人も入れたかったなあ、などと思うのでありました。



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