長きに渡った太平洋戦争、その終戦当日。 密かに日本から脱出した一隻の潜水艦があった。 祖国を後に、反乱を起こした司令官の名は神宮司海軍技術大佐。 その潜水艦の名前は伊403潜。 史実、その製造を確認されていない闇に葬られた潜水艦であった。 そして、20年の年月が経った・・・。 うーん、この最初の設定だけで私はもう「ゾクゾク」「ワクワク」してしまうのでした。 1963年に製作された東宝SF映画「海底軍艦」の始まりであります。 「海底軍艦」は、「戦争秘話」+「SF」という私の大好きな二つのジャンルを兼ね合わせた、日本映画史上最高の傑作SF物語だと思います。 不幸な戦争の終結から20年後、世の中はかつての栄光と繁栄を取り戻していました。 そんな時、世界は想像だにしなかった敵からの攻撃を受けます。 1万2,000年前に海中に没したと云われている伝説の「ムー帝国」が、今なお地底深くに生き残っており、突然の地上侵攻を開始したのです。 そして世界中に暗躍するムー帝国の特殊工作員の一人から「海底軍艦」と呼ばれる「万能戦艦」の存在が明らかになります。 「海底軍艦を受け渡さなければ、世界各国への攻撃を一斉に開始する」とムー帝国は最後通達をしてきます。 20年前、日本からいずこへと消え去った「神宮司大佐」が今なお生きており、どこかの島で、その万能戦艦を建造している、と言うのでした。 ムー帝国が恐れるほどの能力を持つ「海底軍艦」を探すべく、神宮司大佐のかつての上官であった「楠見少将」は、神宮司大佐の愛娘「真琴」を始め、ひょんな事から今回の事件に関わることになった雑誌グラビアカメラマンの「旗中」や、警察庁刑事課長の「伊藤」らを引き連れ、謎の南の島にたどり着くことになります。 その島は「黄鉄鋼」「ボーキサイト」「マンガン」等の自然の大資源に恵まれており、神宮司大佐の極秘計画を実行するのに最適の場所でした。 日本を脱出した神宮司大佐の帯びた特命はただひとつ。 太平洋戦争末期の窮地に陥った日本を救うべく、「万能戦艦」を建造する事でした。 大佐と行動を共にした特別班の名前は「轟天健武隊」。 その万能戦艦「轟天号」がついに完成していたのです。 20年ぶりに上官である楠見に会った神宮司大佐は開口一番、こう言います。 「お喜び下さい!我々は再び立ち上がる時が来たのです!日本海軍のために!」 「海底軍艦の出撃は今や世界の急務だ。世界中が待ち望んでいるんだ!」 「お断りいたします」 「何っ!?」 「神宮司の轟天号は日本が再び世界に雄飛するためにあるんです!」 「よく考えてくれ。戦争はもう20年前に終わっているんだ」 「少将、轟天建武隊は未だ降伏せずです!」 実直で頑迷な軍人である神宮司大佐は、戦後20年経った今でも当初の目的を実行しようとしていたのでした。 困惑する楠見たち。 その翌日、「轟天号」の試運転が行われます。 島の秘密地下ドックで建造された海底軍艦の異様な雄姿を前にして、楠見ら一行は言葉を失ってしまいます。 船体の先端部には巨大なドリル。そのドリルの先にはどんな物体でも絶対零度で凍らす事が可能な「冷線砲」を装備し、巨大な船体は海中はもちろん、地中も、そして空中ですら運行が可能という、まさに「万能戦艦」だったのでした。 戦後20年、旧日本海軍の特殊技術班によって密かに完成していたあり得ざるべき超兵器「海底軍艦」。 この「地下ドックの発進シーン」は日本SF映画の中でも未だに破られる事がない「屈指の名シーン」だと思います。 その密閉された巨大なドック内に段階別に「水」を注水していき、全てのドック内が水に満たされた時にようやくメインゲートが開き、そして海底軍艦が静かにドックから島の湖底へと出ていく・・・。 その「システマチック」な発進シーンは、その後のSF映像に多大な影響を与えました。 イギリスのITCの「サンダーバード」でも同様のシーンが見かけられますが、この「段階を経た発進シーン」描写は「海底軍艦」の方が数年早いのでした。 また、水中を行く海底軍艦が「前進微速」する時には、メイン動力を動かすのではなく、先端のドリルの回転によってのみ推進力を発生させ進んでいくという仕組みは、後の潜水艦漫画「サブマリン707」の「サブマリン・ミニ」に受け継がれています。 水中を進み、そして島の湖から空中に浮かび上がるシーンは、音楽の伊福部昭の傑作スコアと相まって、「血沸き肉踊る」我が良き「冒険活劇」の王道シーンとして末永く後世に残る事でしょう。 そして試運転が終わったその日の夜。 完成慰労の小さな宴が開かれます。 気分が高揚し、いったんはうち解けた神宮司大佐と元上官の楠見少将でしたが、やがて二人はまたまた対立します。この時の畳み掛ける様な二人のセリフの応酬は、非常にドラマチックなシーンとなっています。 東宝SF映画には珍しい「ワンカット長回し」のシーンなのですが、これもまた、この映画の傑作名場面のひとつです。 にこやかに、晴れがましく酒を注ぐ神宮司とそれを受ける楠見。 「さあ、少将!」 「その少将は止めてくれ。古傷に触れるようでたまらんよ」 「古傷ですって?」 「日本は戦争放棄を宣言したんだ。新憲法でね」 「誰がそうしたのです!?」 「何?」 「少将は変わられましたな・・・。自分のいわば反乱にも等しい計画を黙認し、責任はわしが取るとおっしゃった。その時の気持ちはどうなさったのです!?」 「戦後20年という時間が、我々に考える時を与えてくれたんだ」 「では、海底軍艦は無用の長物だと言われるんですかっ!?」 「誰が無用の長物と言った?必要あればこそ、こうして出かけてきたんではないか。海底軍艦は決して無駄ではない。世界がそれを要求しとるんだ!」 「お断りしますっ!」 「貴様まだ分からんのかっ!」 「お断りします・・・。神宮司は日本海軍のために海底軍艦を建造したのです!」 「世界は変わったんだっ!」 「だから、海底軍艦でまた変えます!」 「馬鹿っ!」 「世界は変わったんだっ!」「だから、海底軍艦でまた変えます!」というこの二人のやり取りは、「SF者」なら、一度は必ず口に出して真似した事がある名セリフではないでしょうか。 またこの映画、海底軍艦の強大なパワーに対比するかの様に描かれる「ムー帝国」による都市破壊シーンも圧巻です。 特に私が好きなのが「丸の内大破壊」シーンです。 「ムー帝国」から「真夜中の午前0時に東京の丸の内を破壊する」という予告が入り、深夜の丸の内ビル街には戒厳令がひかれます。 建物の角々には多くの警官隊が配置され、数十台のサーチライトが夜空を照らし出し、全員が空を見上げて警戒しています。 やがてビルの時計塔が予告のあった「午前0時」の鐘を鳴らします。 固唾を呑んで緊張する人々。 が、何も起こらない・・・、と思った次の瞬間、空を見上げる警官隊の足下のマンホールの蓋が蒸気と共に次々と吹っ飛んでいきます。 そして何が起こったのか分からないまま、警官隊共々、丸の内のビル街は地底へと飲み込まれていくのでした。 このシーンは観るたびにゾクゾクさせられます。 一番脂が乗っていた頃の東宝SF「ミニチュア・大破壊」シーンだと思います。 この「海底軍艦」のような、「戦争秘話」+「SF」というジャンルの話が私は大好きです。 同じ東宝SF映画の「電送人間(旧日本陸軍の極秘計画によって生まれた怪物)」や「フランケンシュタイン対バラゴン(大戦末期にナチス・ドイツから日本へと運び込まれたフランケンシュタインの心臓)」も、この「戦争秘話」+「SF」というジャンルの物語で、私の好きな映画なのでした。 そう言えば漫画では「鉄人28号」も「旧日本軍の秘密兵器」という設定でしたね。 |
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