SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.25
「大地の冬のなかまたち」について

(2002年5月25日)


以前のエッセイで、私が小学生の頃に読んだ「天使で大地はいっぱいだ」という児童文学について書きました。
そして、その続編が存在していた事をつい最近になって知った、という事も書きました。
あの大好きで未だにタイトルが頭から離れない「天使で大地はいっぱいだ」の続編の存在。
これはぜひとも読んでみたい!
インターネットの本屋さんをいくつか調べてみると、この本はとうの昔に「廃刊」になっていました。
その後、インターネットの古本屋さんやネット・オークションなどでも調べてみたのですが、結局見つける事は出来ませんでした。
こうなったら・・・、図書館に行くしかない!
と言うワケで、子供の頃以来、数十年ぶりに図書館という場所へ行ってみた私なのでありました。

私の住んでいる地域にある図書館を調べてみると、全部で「8館」もある事が分かりました。その中から一番近い図書館にまずは行ってみることにしたのです。
歩いて10数分の所でした。
こんな近くに図書館がある事にまずはビックリしました。
そして、数十年ぶりに入った図書館の中。
私の行った場所は地区の中でも小さめの図書館だったのですが、それでも立派で、大きな書架が幾つも並び、たくさんの本が整然と収まっていました。
久しぶりに嗅ぐあの図書館の匂いに、懐かしさのあまりしばらくは頭がクラクラしたのでした。

閲覧コーナーのテーブルでは静かにページをめくる音。
当然、騒いでいる人は誰一人いません。
ときおり小さく「コホン」などと咳の音。
まるで小学生時代にタイムスリップした様な感覚を、しばらく楽しんでいた私でありました。
数分後、現実に戻った私は、カウンターで「利用者カード」を作ってもらいました。
「利用者カード」は30秒ぐらいで簡単に発行されました。
そして、しばらくは何処に何があるかを確認するために書架の間を散策して回ってみた後、パソコンが数台置いてある小さなコーナーを発見しました。
どうやら今日日の図書館、パソコンからその蔵書を検索出来る様になっているのでした。
私が通っていた数十年前にはそんなシステムは当然ありませんでした。
しかも、その検索システム、訪れた図書館だけではなく、その地区にある全ての図書館の蔵書の中から本を捜してくれる仕組みになっているのです。
これは便利。これは凄いです。
しばらくパソコンをいじり、私が探していた「大地の冬のなかまたち」は別の図書館にある事が分かりました。カウンターの係の人に聞いてみると「取り寄せる事も出来ますけど」と言います。
が、私は他の図書館も見てみたくなり、その数日後、その目的の本を置いてある別の図書館に行き(電車で一つ隣の駅でした)、お目当ての本をついに手に入れたのでありました。

住んでいる都道府県、その市町村にあるそれぞれの図書館によって仕組みは違うのでしょうが、私の所では一度に「7冊」も借りることが出来、返却期限は「2週間」。
場所によっては音楽CDや映画のVHSなどの貸し出しも行っていました。
建物は綺麗で清潔、広くて快適。
当然、冷暖房完備です。
他館からの「取り寄せ」や、「閉架(へいか)」といって一般閲覧できる館内の書架に置いてある(これは開架と呼びます)以外の、館内の別の場所に保管してある蔵書も「指定の用紙に記入してカウンターに提出すると数分で本を用意してくれるシステム」などもあり、使い勝手も良くサービスも満点。
本屋で探すよりも読みたい本が(そしてなりより無料で!)簡単に手に入るのです。
これは利用しない手はありません。
土日はもちろん、平日でも朝の8時半ぐらいから夜の8時頃まで開館しているのです。
当然、古い本ばかりではなく、巷で話題の最新刊も多く所蔵しているのでした。

そして何よりも、これらの図書館は私たちの毎月払っている高い「住民税」によって運営されているワケですから、子供たちはもちろんの事、大人たちはすべからく利用しなければ「損」だとも言えるのではないか、と改めて思ったのでした。
毎月、書籍代に高い出費をしている「本好き」の人には、これ、図書館は今更ながら非常に便利で、大変お薦めな場所なのでありました。


で、「大地の冬のなかまたち」です。
作者は「後藤竜二」。
私が読んだのは1981年に出た講談社文庫版です。
デビュー作であり「1966年度講談社児童文学新人賞佳作」を受賞した「天使は大地でいっぱいだ」の4年後に書かれた続編です。
この作品も「1970年度野間児童文学推奨作品賞」を受賞しています。
本作も前作の「書き手」である北海道美唄(びばい)の小学6年生「サブ」によって物語が語られていきます。
時代設定は「昭和40年代」ぐらいでしょうか。
いつもよりも早い初雪が降った10月末のとある朝から物語は始まります。
前作でも登場したサブの兄弟「ノブさん」「シド」「ジョウ」「マキ」や担任の女教師「キリコ」、悪友の「ロク」「ジック」は本作でも健在です。
その中に新たな登場人物が加わります。
それは、近くの炭坑の閉山によって転校を余儀なくされ、サブと同じクラスになった自己中心的でニヒルなガリ勉「カッチ」です。
彼は、炭坑の職を失い酒浸りの日々を送る父親と、幼い弟の寂しい三人暮らし。
幼い頃から続いた厳しく辛い現実が彼を「勉強して偉い大人になる事だけが全て」という性格に変えてしまっていたのでした。
新しいクラスの中で友達も作らず、暇さえあれば「ボロボロになった数学の問題集」に一人向かっているカッチ。
天真爛漫な自然児である主人公サブは、そんなカッチに反感を覚え、事あるごとに突っかかって行くのでした。

ある時、「カッチ」は担任の「キリコ」とも衝突します。
「競争のために勉強しているわけじゃないのよ」とキリコ。
「先生の考えはあまいと思います。勉強は競争のためにするものだと思います。たとえば、受験競争ひとつをとってもわかります。世の中の仕組みそのものが、強くなければ生き残れないようにできているじゃありませんか。それでも先生はちがうというのですか」とカッチ。
「和男くんのいうことは正しいわ」と静かに反論するキリコ。
「和男くん、現実はそのとおりよ。だからこそ、いい?だからこそ、わたしたちはね、そんな現実をみんなでかえるために、おたがいが助けあって学んでいかなければならないのよ」。

こうして、この「大地の冬のなかまたち」は、厳しい北海道の冬の大自然を背景に、主人公サブとカッチとの激突、そしてほのかに芽生えた友情と突然の哀しい別れなどが淡々と、それでもドラマチックに描かれていくのでありました。


基本的に「児童文学」は子供に向けての物語であり、その作者も一番子供たちに読んでもらいたく作品を書いたと思うのですが、良く出来た「児童文学」は充分、大人が読んでも面白いのです。
そしてまた、本当に面白い「本」は何年経とうとも、何十年何百年経とうとも、やはり面白い、と思うのでありました。

「本」っていいなあ。




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