SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.30
「胃カメラを、呑む」について

(2002年7月6日)


「胃カメラ」を呑んだ事ありますか?
私はあるのです。
それは今年の1月の事でした。

今回のエッセイは、今度「胃カメラを呑もう」と思っている人、将来「胃カメラを呑む」事になる人の、ちょっとした参考になれば、と思って書くのであります。
とは言いつつも、ここに書かれている事はみんな「私SYUの場合は」という前提の元にお読み下さい。
病院や検査対象によって、そのやり方は多少違うと思うからであります。


緊急の場合を除いて、「胃カメラ検査(内視鏡検査とも言います)」には予約が必要です。
私の場合、「胃カメラ検査をしてもらおう」と思って病院に予約を入れた日から、ちょうど一週間後がその検査日になりました。

検査の前日には、夜の8時以降の「飲食」は禁止。「薬の類」も駄目で、当然、「喫煙もアルコール類」も禁止となります。
ただ、「水やジュースぐらいなら少し飲んでも良いですよ」とも言われました。
私が一番辛かったのは「酒とタバコ」を禁止された事です。
私は酒もタバコも大量に飲んだり吸ったりする人なのです。
ま、だからこそ胃カメラを呑む羽目にもなったのですが。

さすがに「酒」は控えましたが、タバコはどうしても我慢出来ずに、前日の夜11時ぐらいまで吸ってしまいました。
「明日、先生に8時過ぎにタバコを吸った事がバレて怒られたらどうしよう」などと思いつつ、ドキドキしながら吸ったタバコは、いつもより少しおいしく感じました。

そして次の日。検査当日です。
結局、不安と緊張のまま一睡も出来ずに、その朝を迎えたのでした。
朝の8時15分に病院へ。
私の通っていた病院の「受付開始時間」が8時15分だったのです。

私が病院に通うようになって、まず最初に驚いたのが、朝早くから大勢の患者がやって来ている事でした。
私はとても不規則な生活を送っていましたので、朝の8時15分などと言う信じられない早い時間に、病院が多くの人で混雑している事にとてもビックリしたのです。

さっそく、「内視鏡室」という部屋の入り口横にある受付に、前もって渡されていた「予約票」を出したのですが、すでに先客がいたらしく、「本日3番目」の検査となりました。
私が行った病院の場合、「検査指定日」は前もって決められるものの、当日の検査の順番は「受付順」という仕組みになっていたのです。

しばらく「内視鏡室」前のソファで座って待っていると、やがて、「SYUさーん」という呼び出しを受け、部屋の中に通されたのでした。

「胃カメラは初めてですか?」と聞かれ、素直に「はい」と答えました。
「内視鏡検査」の担当の看護婦から、「まず、これを飲んでください」と差し出されたのが、紙コップに半分ぐらい入った透明の液体でした。
これは「胃壁を洗う」ための薬みたいでした。
続いて、「じゃ、次はこれを飲んでください」と差し出されたのが、コーヒーに入れるミルクやシロップが入っている様な小さなプラスチックの容器。
その中には、さっきより「ドロリ」とした透明の液体が入っていました。
「これは一気に飲み込まないで、喉の奥で3分間、溜めてから飲み込んでください」と言われました。
これは喉の麻酔薬みたいでした。
喉の奥に「3分間」飲み込まずに溜めていると、段々、喉が痺れてくるのが分かりました。

そしていよいよ検査が始まります。

私は「胃カメラ検査」というのは、「立ったまま」顔を上にあげて胃カメラを入れていくものだと思っていました。
その方が胃カメラが身体の中に入っていきやすいだろう、と思っていたのです。
が、実際には違い、ベットの上に横たわるように言われました。
そして、口に「マウスピース」をくわえさせられました。
これは固いゴムで出来た「じょうご」状の物体で、胃カメラを差し込む時に「入り口を確保」するためのモノなのでした。
人によっては、苦しさの余り思わず歯を食いしばってしまう事があり、それを封じる目的があるのでした。
「歯を閉じられて」しまったら胃カメラが身体の中に入っていく事が出来ず、また、何よりも、ひとつ数千万する高価な機材が壊れてしまいます。
それを防ぐための「マウスピース」なのでした。

この手の特殊な検査の場合、専門の技師が行うものだとばかり思っていたのですが、私の場合、私の担当医(内科の先生)が実際の作業に当たってくれました。
その先生は私よりも若い女の先生でした。
助手に一人、こちらは「内視鏡検査担当」の看護婦が付きました。

前もって「タオルを一枚持ってくるように」言われていたのですが、これは私の口元に敷かれました。
人によっては、検査中に「嘔吐」や「出血」する場合があり、そのためのタオルでした。
また、検査中は「唾を飲み込まないで」と指示されますので、口から流れ出た唾を受け止める目的でもありました。

「じゃ、入れていきますよー」。
胃カメラの先端が私の口の中に入って来ました。
「ちょっと苦しいけど我慢してくださいねー」と先生。
「やっぱ苦しいのか・・・」と愕然とする私。


私は昔から病院が大嫌いでした。
多少、体調が悪くても我慢して病院へは行かない人でした。
それは「病院などに行ったらますます病気が重くなる」と思っていたからです。
「病は気から」と思っていたのです。
が、さすがに今回だけは、そうも言ってられない症状もあり、意を決して「胃カメラ」を呑む事にしたのでした。
そんな私ですから、ベットに横たわった時には「もう何でも好きにして」という気持ちになっていました。

一番苦しかったのは、胃カメラが「食道」を通過する時でした。

だいたい、人間の身体には「口に入った異物は吐き出そう」とする本能があり、胃カメラなんてモノはその「異物の王様」みたいな物体です。
苦しくないワケがありません。
「はーい、我慢してくださいねー」と先生は優しく言うのですが、我慢しようとしても身体の方が勝手に反応して「おえええええ」となってしまうのです。
かと言って、すでに胃カメラは食道を通過しようとしており、「あ、先生、もういい、もういいです。私、この検査、もう止めます。あ、もう」などと喋る事も出来なくなっているのでありました。


胃カメラが「食道」を通過した後は少し楽になりました。
きっと身体も「あーあ、もう異物は通過しちゃったなあ。ま、いっか」と諦めてしまうのかも知れません。
しかし、私の場合、さらに難関が待っていたのでした。

私は以前のレントゲン検査で「瀑状胃(ばくじょうい)」と診断されていました。
瀑状胃とは、通常の胃とは違い、胃の入り口が胃の出口よりも下にあるというモノです。
胃がひっくり返った様な状態になっているのです。
そこを胃カメラが通っていくためには、食道をいったん下まで降りた後、再び上に向かって上がっていかなければならないのでした。

というワケで、なかなか胃の中に胃カメラが入って行きませんでした。
先生と看護婦との会話。
先生「あー、やっぱ難しいわー。瀑状胃は」。
看護婦「やっぱ、難しいモンですかー、瀑状胃は」。
先生「うん。難しい難しい」。
先生、ちょっと楽しそう。

まことに微笑ましい「上司」と「部下」の会話が繰り広げられていたのですが、私はそれに微笑むゆとりは当然ありませんでした。
胃カメラの先端が胃への入り口を探る際、少し痛みも感じ始めました。
でも、さきほど同様「あ、先生、ちょっと痛い、ちょっと痛い」と喋る事も出来ず。

「えいっ!えいっ!」と、胃カメラを差し込む先生の手にも段々と力が込められてきます。
「あ、今、ようやく十二指腸まで入りましたよー」と嬉しそうに先生が言った時には、私も本当に嬉しかったのでありました。
でも、これで検査が終わったわけではありません。
これから検査が始まるのでした。

胃カメラ検査は、まずは胃カメラの先端を最終地点まで送っておいて、そこから逆に引き抜きながら、いろいろな部位を見ていくという事になっているのでした。

「じゃ、これから見ていきますからねー。ガスをちょっと送りこみますからねー」と先生。
胃や十二指腸の内部をカメラで見るためには、その内部が膨らんでいる状態が望ましく、そのためにガスを送りこみ内部を膨らませるのです。
胃カメラの先端にはカメラはもちろん、ライト、ガスを送りこむための穴、そして細胞を接種するための「細いマジックハンド」を通すための穴が開いているのでした。

「いいですかー、ガスが入りますけども、ゲップはしないでくださいねー。我慢してくださいねー」と先生。
ただでさえ、ゲップは出たい時には突然出てしまうモノ。
しかも、口に太い管を差し込まれ、さらには穴の開いたマウスピースをくわえさせられている状態では我慢しようにも我慢出来るものではありません。
何回かゲップをすると、その度に先生、「あ、駄目ですよー。ゲップしたら中が見れませんよー」と言うのでした。
看護婦もそれを見て、「我慢我慢」「リラックス、リラックス」と言ってくるのでした。

「どの世界に直径数センチの太い管を胃の中まで差し込まれて、しかもその先端からガスを腹の中に送りこまれて、『リラックス』出来る人間がいるんじゃいっ!」などと思った私なのでありました。

しかし、そんな私の思いとは裏腹に検査は進んでいきました。
手元のグリップを操作し、胃カメラの先端をいろいろな角度に向けて、内部の状況を見ていく先生。
「潰瘍は・・・、無い様ですねえー。でも、ちょっと荒れているかなー」などと口に出して説明してくれます。
ベット脇には小型のモニターが置かれており、そこにも私の胃の中の映像が映し出されているのですが、それを見る勇気もゆとりも私にはありませんでした。
もうただただ目を閉じ、「置物」の様にジッとしているだけの私。
そう私は置物。
中に管を差し込まれているただの置物。
そう、私が別の世界にトリップしていると、看護婦が「目を閉じないでくださいねー。自分の20センチ先を見つめていると楽ですよー」と言いました。
しかたがない。
目を開けて、20センチ先を見つめる事にした私。
そう、私は20センチ先を見つめるただの置物・・・。


「はい、終わりましたー」と言われたのは、検査が始まってから20分後ぐらいだったでしょうか。
私の場合は「瀑状胃」で少々手こずりましたが、通常は10分ぐらいの検査だと思います。
詳しい検査結果は後日という事で、その日はそれで解放されました。
「喉に麻酔をしたので、1時間は飲食、喫煙はしないでくださいね」と言われていたのですが、病院を出てすぐさまタバコを吸った私なのでありました。


多少難儀はしたものの、それでも想像していたよりは簡単に終わった「胃カメラ検査」。
何より、貴重な体験が出来たと思います。
だいたい、「口から太い管を胃の中にまで差し込まれる」なんて経験は、映画「エイリアン」の「一番最初にエイリアンの幼虫に取り付かれたジョン・ハート」以外、そうそう人生にあるものではありません。

何らかの異常を胃に感じる人はもちろん、そうじゃない人も、一度経験されてみたらいかがでしょうか?



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