SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.31
「ダイエット」について

(2002年7月21日)


ダイエットの基本、それは「テレビを見ない」事であります。


禁煙を始めた人にとって、その周囲で旨そうにタバコを吸われる事ぐらい辛い事はないのと同様に、ダイエットで食事制限している人にとって、「旨そうな料理」や「美味しそうに食っている人」の映像を見る事は(見てしまう事は)、これ「地獄の責め苦」なのであります。

テレビには、この「旨そうな料理」や「美味しそうに食っている人」の映像のなんと多い事か。
24時間、毎日毎日流されるテレビ映像の約半分以上は「旨そうな料理」「旨そうに食っている人」の映像だと言っても過言ではありません。


実はテレビというのは「食欲の刺激回路」なのではないでしょうか?
グルメ番組やクッキング番組、最近はなりを潜めている大食い選手権、そして旅番組などに「美味しそうな料理」が出てくるのは当然としても、それ以外の番組にも「食い物」の映像はテレビに頻繁に登場するのであります。


その筆頭はテレビ・コマーシャルです。

ラーメンのCMやカレーのCM。
スパゲッティのCMや素麺、冷や麦のCM。
蕎麦やうどんのCM。
それらの「つゆ」のCM。
グラタンのCMやシチューのCM。
レトルト食品や冷凍食品のCM。
納豆のCMや漬物のCM。
焼き肉のタレのCMや唐揚げ粉のCM。
天ぷら粉のCMやサラダオイルのCM。
ハムのCMやウィンナーのCM。
食パンのCMやサラダドレッシングのCM。
コンビニのCMや宅配ピザのCM。
居酒屋のCMやファースト・フードのCM。
お米のCMやお茶漬け、ふりかけのCM。
みそ汁のCMやスープのCM。
ツナ缶のCMやスライスチーズのCM。
バターのCMやケチャップ、マヨネーズ、お酢や醤油のCM。

そして、ポテトチップ、クッキー、ビスケット、チョコレート、アイスクリーム、キャンディ、プリン、スナック菓子、お煎餅など、湯水の様に存在するお菓子のCM。

また、緑茶、ウーロン茶のCMや缶コーヒーのCM、清涼飲料水や炭酸飲料のCMなど、「飲み物」のCMにも「食べ物」の映像が「併せて」登場することが多いのです。
(ちなみに、世の中には「ダイエット・コーク」なるモノが存在しますが、ちょっと考えると、その「ダイエット・コーク」自体飲まないのがダイエットに良い事は明かです)。
その「飲み物CM」の中でも一番「食い物」が登場するのが、「アルコール飲料」のCMです。
「酒類」自体がダイエットの「大敵」である事は当然ですが、さらに、これらウィスキーや焼酎、酒やビール、チューハイなどのCMの中には美味しそうな料理のシーンが必ずと言って良いほどインサートされるのです。
しかも、「ダイエット者」を挑発するかのように「これ食うと太るぞー」というモノばっかりが、実に旨そうに効果的な映像で描かれるのでありました。

そして恐ろしい事に、これら「食べ物が商品」「飲み物が商品」という以外のCMにも「食い物」のシーンは登場するのです。
「胃腸薬」や「ダイエット薬」のCMには旨そうに食っている「食事シーン」が出てきますし、ガス調理器のCMや食器洗剤のCMには必ず「調理」のシーンが出てきます。
それどころか、「クレジット・カード」のCMにだって、「車」のCMにだって、「住宅展示場」のCMにだって、「サラ金」のCMにだって、「飛行機会社」のCMにだって、「食い物」は出てくるのであります。
かように「ダイエット者」にとってテレビ・コマーシャルは非常に「目の毒」なのであります。

テレビにおいて、ダイエット者の敵はCMだけではありません。
ワイドショー系の番組も非常に「危険」です。
その番組の中には「特選!美味しい○○のお店」だの、「厳選!○○お薦めの旨い店」だの、「突撃!○○の晩ご飯」だのといった「食のコーナー」が用意され、レポーターやタレントたちが美味しいお店を紹介したり、実際の家庭に訪問して夕食を一緒に食べたりするのです。
そして「こ、これは!おいしーいっ!」などと無神経な嬌声を上げるのであります。

また最近のバラエティ番組にも何故か「料理コーナー」が設けられている事が多いのです。
いろいろな料理を食べ比べたり、二つの料理の美味しさを競い合ったり、食べた料理の料金を当てあったりするのです。
これらの「ワイドショー」や「バラエティ」の中で、一回の放送で一体何回の「おいしい!」というセリフが発せられるモノか、考えるだに恐ろしいのでありました。

さらに、テレビ・ドラマにも「食事シーン」は必ず登場します。
ホームドラマでは毎回家族が長男の進学問題を話題にしつつ食卓を囲み、昼のメロドラマでは不倫の二人がワインを傾けつつフィレ・ステーキなどを食っていたりするのです。
水戸黄門では毎回黄門様一行が各地の名産品を食べ、火曜サスペンス劇場では捜査中の刑事たちが立ち食いソバやラーメンをすすっていたりするのです。
また最近では、料理人が主人公であったり、レストランがドラマの舞台だったりする「そのままズバリ」の作品も多く作られています。
ダイエットで食事の量を制限している者たちにとって、それらのシーンがいかに「苦痛」であるモノか、ドラマ制作者たちは一向に頓着していない様子なのでした。

そして驚いた事に、ニュース番組ですら、安心して見ていられない事が多いのです。
ちょっと気を許していると、「次は『今が旬!デパ地下グルメ』です」などと言って旨そうな総菜やお弁当を紹介したりするのです。
あの硬派のNHKのニュース番組でさえ、「今日は山形県○○から美味しい便りが届きました」などと食い物の映像を突然流し始めたりするのです。
なんとまあ、テレビ放送にはダイエット者にとって多くの「罠」が仕掛けられている事か。

「じゃ、野球中継などのスポーツ番組にはさすがに食い物の映像は出てこないだろう」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、得てして、それらの番組スポンサーには「食い物」「飲み物」「アルコール飲料」会社が付いており、中継の間のCMには、それらの映像が流される仕組みになっているのであります。

あああああ。

これらのCM、ワイドショー、バラエティ、ドラマ、ニュースなどで無神経に垂れ流される旨そうな料理のシーンを見るたびに、腹を空かしたダイエット者は、「揚げ立て具だくさん天つゆたっぷりの天丼食いてー!」だの、「脂の乗った口の中でとろけるマグロの大トロ食いてー!」だの、「チャーシュー大盛り豚の背脂コテコテのラーメン食いてー!」だの、「生クリームたっぷりイチゴとラズベリーのショートケーキ食いてー!」だのと、身をよじらせてテレビの前で苦悶する事になるのでありました。

あああああ。

これは誰かの陰謀か。
国の秘密政策のひとつなのでしょうか?
「ダイエット者」の慎ましやかな「痩せたい」という願望を、ことごとく砕こうとする強い意志が、そこに確実に存在しているとしか思えないではありませんか。

真面目に考えてみますと、人間の三大生理欲である「食欲」「性欲」「睡眠欲」のうち、この「食欲」をテーマにする事が、一番テレビというメディアに適しているからなのかも知れません。
「性欲」を刺激する映像にはモラル的な強い制約があり、一日中テレビで垂れ流すのは妥当だとは言えず、「睡眠欲」を刺激してしまったら、テレビの視聴率が落ちてしまいます。
一番手っ取り早く、視聴者の興味を引き、テレビに目を釘付けにする映像が、これらの「食い物」映像なのでありましょう。


ダイエットする人はテレビを見ない。

これが私が長年の経験によってたどり着いた結論なのであります。

マジで。



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