SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.32
「ジョニーが凱旋するとき」について

(2002年8月11日)


「第十七捕虜収容所」。1953年、ビリー・ワイルダー監督作品。
「西部開拓史」。1962年、ヘンリー・ハサウェイ、ジョン・フォード、ジョージ・マーシャル監督作品。
「博士の異常な愛情」。1964年、スタンリー・キューブリック監督作品。
「ダイハード3」。1995年、ジョン・マクティアナン監督作品。
「スモール・ソルジャーズ」。1998年、ジョー・ダンテ監督作品。


これらの映画に共通している事は何だか分かりますか?


そう、いずれも劇中曲に「ジョニーが凱旋するとき(WHEN JOHNNY COMES MARCHING HOME)」という音楽が使われている事です。
(この曲は、『ジョニーが凱旋する時』『ジョニーの凱旋』『ジョニーが帰ってくる時』『ジョニーが帰ってくるとき』という邦題でも時々見かけますね)。

私は、この「ジョニーが凱旋するとき」という曲が大好きです。
♪タラララッタ、タッタッタッタッ、タータター♪という、あのマーチ曲です。
って、知らない人は「♪タラララッタ」じゃ分からないか。

また、マーチ曲と言ってもイケイケドンドンの「勇ましい」系じゃなく、どことなく「悲壮」系のマーチ曲の傑作なのであります。
この曲はアメリカの歴史史上、最初で最後の悲惨な内戦であった「南北戦争」の時に歌われた歌でした。
戦場に出た兵士たちが故郷に凱旋する際、傷つき友を失った兵士たちを出迎えたこの曲が、凱旋曲とは言え、どこかもの悲しいのはそのためなのかも知れません。
作曲したのは北軍の軍楽隊長「パトリック・S・ギルモア」という人。
アイルランド民謡にそのルーツがあるらしいのですが、一度聴いたら忘れられないシンプルなそのメロディは、北軍南軍関わらず、当時流行したのでした。


最初に上げた映画の中で、この曲が一番効果的に使われたのはキューブリックの「博士の異常な愛情」だと思います。
これは私の大好きなSF映画の傑作でもあります。
無線機の故障によって、帰還命令が出ているのにも関わらず、水爆を抱えてソ連領土へ向かう一機の「B52」。
映画の中では、その「B52」のシーンになる度に、この「ジョニーが凱旋するとき」が、ある時は勇ましく、ある時はもの悲しく、そしてある時には軽妙なアレンジで、繰り返し繰り返し流れるのでありました。
キューブリックの映画における音楽の使い方の上手さには定評がありますが、この「博士の異常な愛情」での音楽の使い方の巧みさは、特出すべき点だと思います。
特に、映画のラスト、B52の水爆投下が引き金となり、ソ連が秘密裏に開発していた「地球上の全ての生命を10ヶ月以内に抹殺できる究極兵器『皆殺し爆弾』」が作動し、地球のいたる所にキノコ雲が立ち上がる「人類の最後」のシーンに、「また会いましょう(WE'LL MEET AGAIN)」というラブソングを流すという、その皮肉たっぷりの壮絶さは、これ、映画史上に残る名演出だと言えるでしょう。
多分、「大破壊シーン」に、それとはミスマッチの優しく切ない「ラブソング」を流すという事を一番最初にやった映画だったのではないでしょうか?

「西部開拓史」は私の好きな西部劇です。
固有の「神話」を持たない新しい国であったアメリカが、その「疑似神話」とも言うべき「西部開拓時代」の事に思い入れがあるのは当然の事でしょう。
この映画は、とあるイギリス移民家族の三世代に渡るアメリカ西部でのドラマチックな人生を描いた大叙事詩であります。
この映画において、「ジョニーが凱旋するとき」は、ローリングス家の長男ゼブが南北戦争に出征する時、そして文字通り帰還するシーンに使用されていました。

「第十七捕虜収容所」はタイトル通りに第二次世界大戦のドイツ軍の捕虜収容所を描いた名作であり、私の好きな「捕虜収容所モノ」の傑作であります。
この映画では、最初のオープニングタイトルで、この「ジョニーが凱旋するとき」が早くも流れてきました。
また、収容所内にいたドイツ軍側のスパイが仲間たちに処刑され、主人公のアメリカ兵セフトンが無事に収容所から脱走した後の本当の映画のラストシーン、一人の兵士が夜、ベットの中で口笛で吹く「ジョニーが凱旋するとき」が、実に印象的でありました。

意外な使われ方をしたのは「ダイハード3」」でした。
テロリストたちが、ニューヨークの地下金庫から金塊を強奪する、そのシーンに使用されていました。
本来「悪者」であるハズのテロリストたちの、緻密な計画に基づく金塊強奪シーンが、この音楽の使用によって、何だかとても格好良いシーンになっていたのでありました。


本来、マーチ曲、行進曲は、「よおしっ!みんなで戦争に張り切って行くぞー!」という兵士たちの気持ちを鼓舞するためのものだと思うのですが、この「ジョニーが凱旋するとき」が持つ「楽しくてやがて悲しくなりにけり」感には独特のモノがあります。
この曲は行進曲なのに、何故か「反戦」の臭いが感じられるのでありました。

そお言えば、「ジョニーは戦場に行った」(1971年、ダルトン・トランボ監督作品)という、この音楽からインスパイアされた(正しくは、この曲のアイルランド版『あのジョニーはもういない JOHNNY I HARDLY KNEW YE 』からインスパイアされた)反戦映画の傑作もありましたっけ。


(追補1)行定勲の「遠くの空に消えた(2007)」で、中近東風にアレンジされて使用されていました。
これにはちょっと吃驚したのですが、それよりもエンド・クレジットでその事が何一つ明記されていない事に、凄く驚いたのでした。
劇中数回、キーになる場面で使われているのに。
いいのか、それで。




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