SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.42
「私がプラモデルを作るのが遅いワケ」
について

(2003年2月11日)


私はプラモデルを作るのがとても遅いのです。
完成させるのがとても遅いのです。
今回は、そのお話。
というか、その言い訳なのであります・・・。


私は一つの模型を作り始め、それが数ヶ月で完成したなんて事は今までに一度もありません(子供の頃にはありましたが)。
数ヶ月どころか1年で完成した事もありません。
だいたい数年、長いモノになると10年近くいじり回している模型があったりするのです。


その第一の理由は「取りかかるのが非常に遅い」からなのであります。
プラモデルを買って家に戻り、まずは箱を開けて中身を確認します。
しかし、そのまま作り出す事はなく、再び箱を閉じ、そしてそれを「押し入れ」にしまい込むのであります。
いやいや、箱が開かれる模型はまだ良い方です。
中には一度も箱を開く事なく、買ってきた模型屋の袋のまま「押し入れ」に直行するキットも少なくないのであります。
こうして、私の買った模型は数ヶ月、いや1年2年、いやいや長い時には5年10年、まずは「押し入れ」に眠り続ける事になるのです。

カレーじゃないんだから、寝かしておいても決して熟成して「さらに良いキット」になっていくワケでもないのですが、すぐには手を付ける事が出来ないのです。
模型が趣味じゃない人は、いや趣味である人でも「作りたくて買ったのに、何故すぐに作らないのだ?」と思うかも知れません。
その理由はいろいろあります。

大方の「大人のモデラー」がそうである様に、「他にもいろいろとやらなくちゃならない事があって、なかなか模型製作だけに時間が取れない」という理由。
また、「欲しいキットを買った時点で、何故か模型という趣味のかなりの欲求が満たされてしまう」という理由。
そして、「他にもすでに並行して進んでいる模型製作があって、さらに新しい『生産ライン』を増やすワケには行かない」という理由。

時には、「作らないなら買うな!」などと至極真っ当な事を言われつつ、それでも「ため込むモデラー」はせっせと「押し入れ」の中に「私だけの模型屋さん」を作り続けるのであります。
それでも時々、「どう考えても、今後死ぬまで作り続けてもコレ全部作り切れないよなあ・・・」などと気がつき愕然としつつも、「いやいや、それは気のせいだ」と思い直し、再び新しい模型を買ってくる事になるのであります。


なかなか完成しない第二の理由は「製作ペースが遅い」というモノです。
しまい込んで数年後、再び箱を開いてみます。
当然この時、「作ろうと思っていたキットが押し入れの中から見つからない」という事もよくあります。
そおいったキットは、さらに数年しまい込まれ、もしくは、もう二度と作られる事はなかったりするのであります(もしくは、新しく同じキットを買っちゃうとか)。

目出度く押し入れの中から発掘されたキットからは、まず組み立て説明書を取り出します。
それを「おお!」とか「なるほどなるほど」とか「え?」とか呟きながらじっくりと読んでいくワケです。
説明書を眺め、パーツをチェックしていくのです。
この際、最後に「へえー」とか言いながら再び説明書を箱にしまい、そのまま再び押し入れに戻される不幸なキットも存在します。

運良く、その次の段階に進むキットもあります。
ランナーからパーツを切り出し、その切り出し跡を丁寧に処理し、パーツの凹んでいる「ヒケ部分」や「押しピン跡」にパテを盛っていきます。
また、パーツの必要以上に「厚い」場所を薄く削ったり、あまりにも形の悪いパーツをプラ板などで「自作」して行きます。
いろいろな「模型製作マニュアル本」に書かれている通り、これらのパーツの整形はプラモデルの仕上がりを左右する一番大切な工程ですから、丁寧に丁寧に進めて行きます。
そして、「手の遅い」私は、この工程にもの凄い時間がかかるのであります。
ちょっとパテを盛ってはしまい込み、ちょっと削ってはしまい込み、ちょっとプラ板を接着してはしまい込みを繰り返し、季節は移り変わって春から夏、夏から秋、秋は冬となり、そして気がつくと再び春が巡ってきたりするのであります。
盛ったパテは「完璧」に固まり、接着したプラ板は「完璧」にくっついていたりするのです。
が、完璧に固まっているパテを削っていると、今度は違う箇所の「ヒケ」が気になりだし、さらに追加でパテを盛り、そして再び季節は春から夏へ・・・。


私のなかなか模型が完成しない第三の理由は「浮気性である」事です。
「よくそんなに一つの模型に根気が続くなあ」と言われる事がありますが、実はその反対で「根気がない」ために、そんなに時間がかかっているのであります。
一つの事をやっていると別の事をやりたくなり、別の事に取りかかったと思うと、さらに別の事が気になったりするのです。
戦車模型を作っていると前に買ってあったソフビ・キットの事が気になり出し、ソフビ・キットのパーツを切り出していると、SF模型に色を塗りたくなってしまうのでした。


そんな事を繰り返して数年後、パーツの整形も終わり、いよいよ組み立て作業に入ります。
まずは「仮組み」をしていきます。
組み立て説明書を信じて接着していくと、後から「あれれ?この部品、はまらないじゃん?」とか「あれれ?この部品はどこに接着するの?」とかいった事があるのです。
そして再びパーツの整形作業と自作作業が始まってしまいます。
さらに、そうこうしていると「キットにはない部分を細かく作りたい!」という欲求がムクムクと沸き上がってきたりするのでした。


完成しない第四の理由は「凝り性」である事です。
例えば戦車模型の場合、実車には当然あるパーツがなかったり、再現度が今いちだったりする時があります。
また、現実には存在しない模型であっても、「もし現実にあったら、ここはこうなっているハズだ」などと妄想が膨らんでくるのであります。
実車モノであればその資料を探し、架空モノであればその妄想を膨らませるために、またまた模型製作はここで中断する事になるのでした。
実はこの段階が一番、模型製作の楽しいところだと思うのですが、端から見ると、「苦労して大変な作業になる事をあえて探している」と、思う事でしょう。
私が常々唱えている「モデラー=マゾ」説の所以であります。

戦車のハッチの裏を細かく作り直し、完成すると全く見えなくなるエンジンを車体に内蔵し、本来開いているべき穴はきちんと開け直し、動くべきところは可動する様に手を加えるのであります。
そして気がつくと、どうでも良い様なところをコツコツ作っているのでありました。
ここで季節は再び移り変わり・・・。

その頃には模型の入っていた箱もすっかり「変色」「変形」していたりして、思わず「フッ」と遠い眼になって「ああ。このキットを買ったのは確か5年前の春だったなあ」などと昔を懐かしんだりするのであります。


さて、模型製作の一番最後に待っているのが「色塗り」作業です。
これがまた、いろいろな理由を付けて進まない私なのです。
春には春で、ポカポカ陽気に塗装する気力が失せ、
夏には夏で、暑さと湿度で塗装する環境ではなく、
秋には秋で、晴れ渡った青空は部屋に閉じこもっているのが馬鹿らしく思われ、
冬には冬で、寒くて換気のための窓を開けられないのであります。

それでも何とかベースの色を塗り、数ヶ月乾かし、色を重ね、また数ヶ月乾かし、もう一度色を重ね、そしていよいよフィニッシュだというところで私の手はパタッと止まってしまうのであります。
戦車模型ならば最後の「汚し」をちょこちょこっと入れる寸前。
他の模型なら最終的な「タッチ」を少し入れる手前。
私の模型製作は完全にストップしてしまうのであります・・・。


なかなか模型を完成出来ない最大の理由。
それは私が「完成恐怖症」だからなのです。
「未完成症候群」というか。
箱を開けてから組み立てが終わり、そのほとんどの塗装が終わるまで数年という長い時間がかかりつつも、それまではコツコツと作り続けてきた私は、後もう一歩というところで手が止まってしまうのであります。
どうやら完成させるのが怖いみたいなのです。
怖いというか、完成させるのが嫌いみたいなのです。
いつまでも完成直前の状態のままにしておきたいみたいなのです。
「永遠に続く夏休み」というか押井守の「ビューティフル・ドリーマー」の「永遠に繰り返される学園祭前日」というか、そおいう状態が一番好きみたいなのであります。

ああ、美しい「完成一歩手前の未完成品」!



以上、私がプラモデルを作るのが遅いワケ、なのであります。




ダメじゃん!

頑張りまーす・・・。




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