SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.54
「モデラー殺人事件(仮題)」
について

(2003年11月22日)


実は、私はプラモデルを作るのが好きなのと同時に、ミステリー小説の大ファンでもあるのです。

私が好きなのは「本格」とも「新本格」とも呼ばれるジャンルで、いわゆる「不可解な殺人事件」が起こり、そこに「名探偵」が登場し持ち前の「洞察力」と類い希なる「蘊蓄」で事件を推理、そして見事に解決していくというモノです。
「名探偵」は常人ならとても気づかない様な事実に注目し、多少アクロバチックな論理を展開させつつも、複雑にもつれ合った糸を解きほぐしていくのです。

「一生に一度ぐらいは推理小説を書いてみたいモノだ」と常々思っている私ですが、そんな私の「持ちネタ」の中から、今回は「モデラー殺人事件(仮題)」をご紹介するのであります。



とある土曜日の朝。
一人の中年男性が自宅で殺害されているのが発見される。
いや、この段階ではまだ、それが殺人であるのか自殺であるのかは判らない。
死因は左手首の切り傷による出血死。
死体は彼の「作業机」の下で発見され、右手には俗に「デザインナイフ」と呼ばれ鋭利な刃を持つ「X-ACTO」社製「A.X.X.」ブランドのナイフが握られていた。
男の趣味は模型製作。
その作業部屋には数々の完成した1/35の戦車模型や1/72の飛行機模型が、見事な色塗りと共に飾られていた。
正確に言えば男が作っていたのは「プラスチック・モデル」というものらしい。
小学生・中学生時代に熱中し、いったん冷却期間を置いて後、30代を過ぎる頃から再び熱中し出したのだ。
世間的にはこれを「親父モデラー」とか「出戻りモデラー」と呼ぶ。

机の上には塗装を残しただけで全ての部品が接着されたドラゴン社製の「T-34/76 極初期型」のプラモデルが置かれていた。
接着剤の乾き具合から、一番最後に接着された部品は左前部の「前照灯」である事も判った。
それを接着した後に彼は事切れたのだ。

突然の訃報を聞き集まってくる知人と友人達。
自殺説が主流を占める中、一人の男が異論を唱えた。
「塗装前のプラモデルを残したまま自殺するようなモデラーがいるとは思えないなあ」
彼は「たまたま現場にやって来ていた」名探偵であった。

ここで、その名探偵は「モデラー」に関する蘊蓄を語り出す。
「そもそもボクの知っているモデラーなる種族は・・・」(以下50行略)。

謎は謎を呼び事件は混沌を深めたその時、名探偵が死んだ男の作業机を見て事件の真相に気づく。



何の変哲もない普通の小汚いモデラーの作業机・・・。
名探偵が注目したのは・・・。



この「タミヤ」製の接着剤。
左にある緑色の蓋が「タミヤセメント 流し込みタイプ」。
右にある白い蓋が「タミヤセメント 通常タイプ」。



名探偵はこの二つの瓶の蓋にある「疵」に注目したのだ。

それは・・・。

多くのモデラー達の「接着剤の蓋」には、この様な「疵」が付いているものなのである。
何故かと言うと、多くのモデラー達は「左手」で模型の接着部品を押さえながら、「利き腕の右手」で接着剤の瓶を持ち、そのまま持ち上げて蓋を「奥歯で噛んで」開けるからである。
つまり、この瓶の蓋についている「疵」はモデラー達の「歯形」なのだ。
さらに、右利きのモデラーは右手で瓶を持ち蓋を噛む事によって表面には「左下から右上にかけての疵」が出来るのに対し、左利きのモデラーは「その逆の疵」が刻まれるのである。
殺害された男は右利き。
蓋には「左下から右上にかけての疵」が多く見られたのだが、その中でひとつだけ「右下から左上にかけての疵」が刻まれていたのである。
それは、この接着剤を「左利き」の人間が「一度だけ」使った事実を示していた。
疵の状態から、それは一番最後に付けられた事も判った。

被害者が作っていた「T-34/76 極初期型」。
その「前照灯」を最後に接着したのは被害者では有り得ない、「左利き」の第三者なのであった・・・。

応接室に集められた容疑者達を前に、かの「名探偵」はにこやかに宣言する。
「犯人は・・・、あなたですね・・・」



てなヤツなんですが。
どうでしょう?
ダメですかー?



禁無断転載。
と言うか、このネタはもはや「ある」かしら?




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