SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.55
「今日の名台詞 その(7)」
について

(2003年12月27日)


私は昔から本や漫画、テレビや映画などに登場する「名台詞」を日記に書き留めておくようにしていました。

と言うワケで、今回も昔の日記からそれを抜き出してご紹介するのであります。

コメントはその当時のモノ。
※印付きのコメントは、今の私の補足説明です。

またまた前後の脈略無くズラズラズラと並べてみました。



「帝国主義を成功させるためには、そのイデオロギーを少年少女に吹き込むにかぎる。あるいは、そこまで行かなくとも、帝国を自明のものとして受け入れる心の素地を作るにかぎる。その役割をになったのが少年文学である」
富山太佳夫「シャーロック・ホームズの世紀末」より。
※「シャーロック・ホームズの世紀末」はホームズが生きた「19世紀末ビクトリア王朝時代」の生活や文化を紹介した本です。
上記の一文はイギリスのビクトリア王朝時代について語られたモノですが、ある意味、全時代に共通する事なのかも知れません。
もちろん時代によって「帝国主義」が「○○主義」と変化して行くのでしょうが。
大切なのは多くの価値観に触れ、そして自分で考える力を身につける事なのであります。


「中国人は見つかると大変な事になるような商売はやるが、儲からない商売は絶対にやらない」
※出典不明。


「『蝦蟇の油』の中で、古くからの友人で脚本家の植草(圭之助)さんは泣き虫のロマンチストで黒澤監督は泣き虫のヒューマニストであると、自分でお書きになっていらっしゃいますよね」
「日本の三人の演出家」からインタビューアー渋谷陽一のセリフ。
なるほど。泣き虫のロマンチストと泣き虫のヒューマニストか。
その分類でいけば、俺は泣き虫のロマンチストなんだろうなあ。
※「日本の三人の演出家」は「黒澤明」「宮崎駿」「北野武」へのインタビューをまとめたとても面白い本です。
以下、この本からの引用がちょっと続くのであります。


「山本(嘉次郎)さんの仕事がない時は、ほとんど溝口(健二)さんとか小津(安二郎)さんとか島津(保次郎)さんとかから仕事が来て、セット行ってはほとんど1日くっついて見てましたよね。で、そこから時々いろいろ教えてもらったしね。映画を作る上でっていうよりも、たとえば島津さんなんか『黒さん、もうそろそろ監督になるんだろうけども、徹夜なんかおよしよ』って−−徹夜しているとすごく働いた気持ちになるんだけどね、あれは決してねえ、内容的に本当にいい仕事をしているわけじゃないんだよ−−『あんなバカなこと絶対しちゃ駄目だよ』とか、そういうことをずいぶん教わりましたよ」
「日本の三人の演出家」から黒澤明のセリフ。
※確かに徹夜の作業は「非効率的」なのであります。
が、しかし、世の中には「徹夜大好き」という人間もいるのです。
徹夜が好きと言うよりも「深夜が好き」なのかも知れません。
私です。


「僕は回復可能なものしか出したくない。本当に愚かで、描くに値しない人間を描く必要はないです」
「日本の三人の演出家」から宮崎駿のセリフ。
※昔、宮崎駿はこれを「浄化作用」と呼んでいました。
宮崎駿の「未来少年コナン」が今なお多くのファンを持っているのは、あの作品には多くの「浄化作用」が描かれているからだと思います。モンスリーしかり、ダイスしかり、ジムシーしかり、です。
メイン・キャラクターで唯一、最後まで「浄化」されないのがレプカなのですが、あれは作劇上、必要なキャラクターだったのでしょう。
反対に言えば。
最近の宮崎駿のアニメーションに足りないのは「最後まで悪い悪者」なのだと思うのであります。


「たとえば文化の問題だとか文明史の問題とか人類の文明とかっていうふうなことも同時に頭に去来してるわけですけど、でも何か・・・もう少し混沌が見えたんですね。やっぱり80年代っていうのはねえ、僕は終末も甘美に見えた。そういう甘美な終末は来ない、何て言うんでしょうねえ、たとえば関東大震災が来たとしてね、『焼け野原になったらどんなに気持ちいいだろう』って僕ずいぶん思ってましたよ。実際起こったら大騒ぎするだろうと思うんだけど、そういう気分になっちゃう。だけど焼け野原にならないんだっていうことがわかっちゃったの。ビルの不燃化が進んでますからね、みんな残るんですよ。これはすごいイメージなんですよ」
「日本の三人の演出家」より宮崎駿のセリフ。
※「甘美な終末は来ない」というセリフに私は感じたのであります。
しかし、未来を描いたSFにおいて、「廃墟のビル群が墓石の様に荒野に残っている」というイメージは、いつ頃から始まったモノなのでしょうか?オリジンは何なのでしょうか?
これは調べてみる価値あり、かな?


「・・・・たとえば白虎隊がいざ死のうというときに、だんだん刺し違えていくと偶数とは限らないから一人ぐらいははみだして、その奇数のはみだし野郎っていうのは最初から決まっているんじゃないか、何となく今まで、そういう人のために小説を書いてきたような気がするんだけど」
中井英夫。去年、1993年12月10日に亡くなった。
※と日記には書いてありますから、今回の「今日の名台詞」は私の「1994年の日記」からの抜粋なのであります。
中井英夫は幻想・ミステリー作家で、彼の「虚無への供物」は「日本三大奇書」の一つでもあります。
ちなみに残る二つは、夢野久作「ドグラ・マグラ」と小栗虫太郎「黒死館殺人事件」です。


「オトナには、昔を懐かしむ権利もあるんだよーん」
香山リカ。
※今の香山リカはどうだか分かりませんが、昔の香山リカはいろいろと面白いセリフを残しているのであります。
ちなみに私は「昔を懐かしむ」のが大好きな人間なのです。
困ったモノです。


「どんな時代でも、命ある限り、生きていかなくちゃ、ね」
ドラマ「幕末高校生」の中の「細川ふみえ」のセリフ。
※これはフジテレビでやっていたドラマでした。
あまりにも当たり前のセリフですが、何か感じるモノがあるのであります。


「永遠の夏はないものね」
NIFTY「パトレイバー2会議室」より。
※当時(1994年)パソコン通信の掲示板に書き込まれたセリフ。
「機動警察パトレイバー2」は、押井守の傑作アニメーション映画でした。
そしてまた、押井守は「永遠の夏は来ない」作品をずっと描き続けている映像作家であると私は思うのです。


「無限の冬はあるけどね」
NIFTY「パトレイバー2会議室」より。
※前述のセリフの後に、別の人が掲示板に書き込んだセリフ。
昔も今も掲示板の醍醐味は会話の妙にあると思います。
この様に反応したセリフ、とても見事です。


「わたしたちのうちの一人は留学のために羽田をたったばかりで、もう一人は72年の年の2月の暗い山で道にまよった」
樹村みのり「贈り物」より。
※樹村みのりは私の大好きな漫画家です。
国際留学のために「羽田を発った」と言うのがとても「時代」を感じさせるのであります。
それにしても、人生いろいろ、です。


スキーをしているOL三人組。
一人がさっそうと先に滑って行った後、残った二人が、
A「ほんとにあのコは運動神経いいねえ。いっしょに始めたのに上達が早い」
B「−−だけど、敗者の孤独も努力がまるで報われないせつなさも−−彼女が本当に理解することはないんだわ」
A「言うわね
−−運動神経ないくせに」
B「(ふっふっふ)負けないわよ。口先だけは」

秋山りす「OL進化論」より。
※人もそれぞれ、なのであります。


「例えば、『さらさら鬼娘』(トップ社)というのがある。なにが『さらさら』かというと、『さらさらっと』人を殺すからだということである(す、スゲー!)」
唐沢俊一「脳みそ直撃!怒濤の貸本怪奇少女マンガの世界『まんがの逆襲』」より。
※確かに「スゲー」です。「さらさらっと」人を殺すのが。
昔の漫画のタイトルは面白いモノが多いのです。


「現在はどうしておられるのです」
「きらわれながら もとの血液銀行につとめて 鬼太郎たちと二階借りして暮らしています」
「どうしてそんなおそろしい子どもと・・・?」
「おそろしいからこそ、いっしょに暮らしているのです。はなれていれば、どんなふしぎなことが おこりはしないかと恐怖心にかられます かれらといっしょに暮らすほうが かえって安全なのです」

水木しげる「鬼太郎夜話」から血液銀行の社員「水木」のセリフ。
※水木しげるも私の大好きな漫画家です。
セリフ回しやロジックがとても面白いと思うのです。
「危険なモノと一緒にいた方が安全」というロジックに、「なるほどなあ」と思ったのであります。


「わたしもう はずかしくて学校にいけないわ」
「いや ぼくが悪かったのです べんとうに どぶねずみを持ってこなければ こんなことに ならなかったのです」

水木しげる「鬼太郎夜話」から猫娘と鬼太郎の会話。
※これはどういう状況かと言うと、鬼太郎が学校に持って来た弁当箱の中に「どぶねずみ」が入っており、それを見た隣の美少女が思わず「猫娘」に変身してしまったのであります。
確かに、学校の弁当に「どぶねずみ」を持って行く方が悪いっ!


「外灯は暗くスズメはやせておりました」
大島弓子「全て緑になる日まで」より。
※大島弓子は大好きな漫画家で名セリフも多いのであります。
って前にも書いたなあ。
「貧しい国でした」という事を表現するために、上記の様なセリフを生み出すのが「凄い!」と思うのであります。


「かすり姫 ないてもいいけど あとでニヒリストにだけはなるなよ」
大島弓子「アポストロフィーS」より。
※大好きな大島弓子の漫画の中でも「ベスト10に入ろうか」と言うのが、この「アポストロフィーS」なのであります。
このセリフの通り、人は泣いた回数の多さで「ニヒリスト」になっちゃうモンなのであります。


「いい事なのか、それとも悪い事なのか、わからない。でも、多くの人間がそうである様に、俺もまた自分の生まれた国で育った。そして、ごく普通の中流家庭に生まれつく事が出来た。だから、貴族の不幸も貧乏人の苦労も知らない。別に、知りたいとも思わない。子供の頃は水軍のパイロットに成りたかった。ジェットに乗るには水軍に入るしかないからだ。速く高く、空を飛ぶ事は何よりも素晴らしく美しい。でも・・・。学校を卒業する2カ月前・・・そんなモノにはなれないって事を成績表が教えてくれた・・・。だから・・・。宇宙軍に入ったんだ・・・」
「王立宇宙軍 オネアミスの翼」の「シラツグ・ラーダット」の冒頭のセリフ。
※「王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987)」も私の大好きなアニメーション映画です。
映画のオープニングで描かれる主人公「シラツグ」の少年時代の回想シーンは、とても美しくとても映画チックだと思うのであります。


「大きなデタラメほど、大勢が信じる」
とヒットラーが言ったらしい。
新城十馬「蓬莱学園の魔獣!」より。
※手紙でやり取りするRPG「蓬莱学園の冒険」は、その後、小説版が何冊か発売されました。これもその中の一つ。
本当にヒットラーが言ったのかぁ?宣伝省のゲッペルスあたりが言ったんじゃないかぁ?とも思いますが、非常に納得させられるセリフです。


「『元気な時はたんと食え。病気の時はもっと食え』とゆーのが、月森家の家訓でね」
川原泉「バビロンまで何マイル?」より。
※川原泉も大好きな漫画家です。
私の中の「女性三大漫画家」は「大島弓子」「高野文子」そして「川原泉」なのであります。
いつかウチのエッセイに書こうと思っているのですが、この人の事を書くのは結構「体力」がいるんですよねえ・・・。


「互角だな!」と言った方が弱い。
ASCII 4月号「マーフィーの法則」より。
※「マーフィーの法則」は一冊の本にもなっていますが、一時期、ASCIIで連載もしていました。


「犬シチュー、やめてやめてと犬が言い」
LOGIN 7月号より。
※これも面白いのであります。
そもそも「犬シチューって何だ!?」ってところが、とても面白いのであります。
あ、後、「やめてやめて」って気弱なところも。


「夜がこわかったらそうろくに火をつけなさい」
岡田史子「ポーヴレト」より。
※岡田史子も好きな漫画家です。
私の大好きな女性漫画家の源流を辿っていくと、この人の姿がチラホラ見え隠れしているのであります。


「娼婦の情夫どもときたら、幸福で朗かで御満悦の態だ。だが、この私は、雲を抱きしめたために、両腕が折れてしまった」
岡田史子「太陽と骸骨のような少年」より。
ボードレールの「悪の華」の中の「イカルスの嘆き」の詩編。
※イカルスの逸話は昔から私のお気に入りなのでした。


「問題は場所じゃなくて時間なんだよ」
カーク提督。スタートレックの鯨が出てくるヤツより。
※「鯨が出てくるヤツ」とは、「スタートレック4 故郷への長い道(1986)」の事であります。
本作は「時間旅行」を扱ったSFなのですが、何故かスタートレックはどのシリーズでも「タイムトラベル物」には傑作が多いのです。


「いまはだれ?ここはいつ?わたしはどこ?」
ゆうきまさみ「究極超人R」からロボット「田中一郎」のセリフ。
※もちろん「今は何時?ここは何処?私は誰?」の言い換えでありますが、これはこれで「何だか奥が深い・・・」と思うのであります。
と言うか、この発想が実は「SFの基本」である様な気もするのです。「いまはだれ?」でも「ここはいつ?」でも「わたしはどこ?」でも、それぞれ一編のSFが書けるではありませんか。


「監督たる者は、自分の映画が完成してから3年間は『この映画は傑作だっ!』と言い続けなくてはならない」
と、大島渚が言ったそうである。
なるほどー。
※出典不明ですが、その通りだと思うのであります。
完成後にすぐ「本当はあそこはこうしたかった」だの「予算がもう少しあれば」だの「実際は」だのと言った「言い訳」をするプロデューサーや監督がいたりしますが、それはイケナイと私は思うのであります。反則だと思うのであります。
嘘でも「傑作だ」と言えと。
もっとも、最近はそんな謙虚で小心者の監督も少なく、みな「傑作だっ!」と声高に叫び、その「嘘」に吊られて観に行って結果「激怒」する私もいたりするワケなのです。


「この文春にも連載をやっているナンシー関が、他の雑誌で僕の悪口を言いたい放題に書いていた。一番許せないのは僕を『浅い』と指摘してたことだね。僕について嘘を言いふらすやつのことは全然気にならないけど、真実を言いふらすやつは許さない」
週刊文春のデーブ・スペクターのセリフ。
※まったくもって至言なのであります。
一番傷つくのはいつでも「真実」を言われた時です。


「勝てばヘヴン負ければヘル」
LOGINより。
※意味ねー。英語にした意味ねー。
というところが非常に面白いのであります。



とりあえず今回はここまで。

昔の日記からの抜粋なので、記述間違いや出典間違いがあるかも知れません。
その場合は、間違いを教えていただければ、これ幸いなのであります。




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