人には何十年経っても、とある作者のとある作品が忘れられない事があります。 もちろんそれは、漫画でも映画でも小説でもTVアニメでも同様です。 と言うワケで、今回は「寺島令子」の「涙の明日」について書くのであります。 寺島令子は1980年代初頭、関西圏から出て来た漫画家です。 当時流行の「ニュー・ウェーブ」と呼ばれていた事もありました。 得意とするジャンルは、「あーあー、そんな事あるある」とか反対の「そんなの、ありえへん」といった日常生活に根ざした「ほのぼの4コマ(8コマ)」や「ほのぼのエッセイ」漫画です。 OLや姉妹の話や、家族の話、一時期はアスキー(当時のアスキーは今はもうありませんが)から出ていた雑誌に、パソコン初心者奮闘記みたいな漫画も描いていました。 絵の特徴はサインペン等で自由闊達に描かれた線にあります。 また、彼女のキャラクターたちが持つ「眼」が愛らしいのです。 こういうヤツです。 ↓ 瞳孔も虹彩もなく、星もハイライトも入っていない「ベタ」でまん丸に塗りつぶした瞳は、当時「炭団眼(たどんめ)」と呼ばれていました。 そして私は、彼女の「涙の明日」という作品が大好きなのでした。 今でも思い出します。 これは大昔、大阪船場の出版社「プレイガイドジャーナル社」から出ていた季刊(と言っても年に2回ぐらいしか出ていなかったのですが)の漫画雑誌「漫金超(正式名称まんがゴールデンスーパーデラックス)」の第5号「1983年夏号」に掲載された、4コマでも8コマでもない、4ページの短編漫画です。 話はこうです。 とある女子高校。 クラス対抗バレーボール大会最終日。 6組は「3−0」で大敗してしまう。 「あーあ!」「残念!」と屈託無く、補欠の二人「西村」「前川」はさっそく連れだってトイレに行く。 二人がいない間、6組では重大な事件が起こっていた。 負けた責任を感じたキャプテンの「林田京子」が突然泣き出し、「京子 泣かんとき!」「私らかて 私らかて」とチーム全員が連鎖、それに釣られて体育教師たちも号泣していたのだ。 トイレから戻って来た「西村」「前川」は、その異様な光景を見て狼狽える。 「西村さん・・・帰ろう」。 「さ 先にか」。 「ほな・・・どうしょ」。 「・・・」。 こっそり集団から抜け出す二人。 途方に暮れる帰り路でポツリと。 「なあ西村さん 明日学校来る?」。 「えっ・・・」。 「けったいなことになって どうしたらええんか・・・」。 最後のコマで二人も泣いている。 そこにナレーション。 「・・・だけど、涙が出ちゃう。女の子だもん・・・」。 素晴らしい。 試合に負け「私の努力が足りなかった」と泣く林田京子たちのイノセントな涙と、皆と一緒に泣く事が出来なかった事に泣く西村と前川のナンセンスな涙。 最後のナレーション「だけど、涙が出ちゃう。女の子だもん」は、1969〜71年の熱血スポ根バレーボール・アニメ「アタックNO.1」のパロディですが、その両方の涙にこのセリフは掛かっています。 これがたったの4ページで描かれた漫画である事に、私は驚くのであります。 4コマ漫画の上手い人は、ストーリィ漫画を作るのも上手い、とは昔から言われている事ですが、何故編集者たちは、寺島令子にもっともっとストーリィ漫画を作らせないのかなあ。 本人がカッタるくて嫌っているのかな。 いずれにしても、ファンとしてはとっても残念な事なのであります。 ちなみに蛇足ながら。 「泣けなかった事を泣く」話としては、これまた私の大々々好きな漫画家「楠勝平」の「冷たい涙」(ガロ1967年5月号、12ページ)の傑作短編を思い出すのですが、この話はいずれまた、なのであります。 |
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