SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.97
「シーチキンみたいな」
について

(2008年8月10日)


テレビを見ていたら、どこかのデパートでやっていた「物産展」で、名物「蒸地鶏」を一口食った若い女性レポーターが、カメラ目線でニッコリ笑い、「美味しい!まるでシーチキンみたい!」と言っていたのであります。

じゃシーチキン食えばいいじゃん。



この手の「○○みたい」という味の感想は、よくテレビのグルメ番組で見かけられます。

前にも山奥にある民宿で「猪鍋」を食った女性レポーターが、「美味しい!まるで豚肉みたい!」と言っておりました。
その時も思わず、「じゃ豚肉食えばいいじゃん」とテレビに突っ込んだのであります。
また、「鰐ステーキ」を食った女性レポーターが、「まるで鶏肉みたい!」と言っていた事もありました。


「地鶏」を食ったのであれば当然「鶏肉」の味で、「猪鍋」を食ったのであれば「猪肉」の味がして、「鰐ステーキ」を食ったのであれば「鰐肉」の味がするべきだと、私は常々思うのです。
もちろん、テレビの前の視聴者に向けて、自分もみんなも食べた事のある味に「喩えて」判り易く伝えようとしているのでしょうが、あまりにも「適当で迂闊な表現」だと思うのです。

「ちょっと繊維質ですけども鶏肉みたい」とか「ちょっと癖がありますが豚肉みたい」とか言えば良いのです。


名物焼き鳥屋のレポートで、「雀の焼き鳥」や「蛙の焼き鳥」を食べて、「鶏肉みたい!」なんてのも、それじゃわざわざ「雀」や「蛙」を食う意味がないと思うのです。
普通の焼き鳥を食えばよいのです。
(蛙の焼き鳥ってのも、思えば変な表現ですね。蛙は鳥じゃないし。正しくは蛙の串焼き、か)。


人間ってのは何でも食う生き物であります。
それぞれ、その国、その土地の事情に根差した様々な食い物があります。
鰐肉も雀肉も蛙肉も、いや猪肉にしても、そうでありましょう。
だから日本人はわざわざ「鰐肉」なんか食わんでも良いのです。
そもそも私の知っている食肉店には、どこにも「鰐肉」なんて売っていないのであります。

と思っていたら。

ウチの近所の肉屋に誇らしげに「カンガルー肉、入荷しました!」と書かれた貼り紙がしてあった事があり、私は死ぬほど驚愕すると共に、人間の「深い業」を感じたのでありました・・・。



話をちょっと戻します。


同じ「○○みたい」でも、「キュウリに蜂蜜を付けて食べるとメロンの味がする」だの「キウイに醤油を付けると大トロの味がする」とかの「なんちゃって味」には、まだ愛嬌があります。
「アイスクリームにゴマ油を垂らすと、焼きトウモロコシの味」や「プリンに醤油でウニの味」なども、「本当かぁ」とか思いつつも思わず楽しくなってしまいます。

これらは皆、身近な食材が「こうすると高級食材の味がする」という遊び心の発想で、「見立て」としての食べ方であります。
これらは皆たわいがなく、罪がないと思うのです。

私の大好きな落語「長屋の花見」みたいです。
この噺の場合は「味覚」ではなく「色・形状」ですが、貧乏長屋の連中が、「番茶を酒」「大根をカマボコ」「沢庵を卵焼き」に見立てて花見に繰り出すという、実に微笑ましい光景が繰り広げられるのです。


この「○○みたい」パターンは酒、特に日本酒にも使用されます。
地元新発売の日本酒を飲んで、「とてもフルーティ!まるでワインみたい!」というヤツです。
こちらは少し許せません。
それなら端からワインを飲めばよいのです。



話を最初に戻します。


エッセイ冒頭の地鶏を食って「シーチキンみたい」といった女性リポーターは続けて、「でもシーチキンより、深いコクがありますね!」と言っていたのであります。
どっちやねん。

実は私は「シーチキン」が大好きなのであります。

「シーチキン」は大きく二種類に分けられます。
使用原料が「かつお」である場合と「まぐろ」である場合です。

私は「まぐろ原料」の「シーチキン」の方が好きなのです。
「かつお原料」より癖が無く、まろやかに感じるからです。

さらに「かつお原料」は、「ビンナガマグロ」と「キハダマグロ」に分けられます。
それぞれ「ホワイトミート」「ライトミート」と呼ばれます。
私は「キハダマグロ」「ライトミート」の物を愛用しています。
「ビンナガ」「ホワイトミート」より、値段が安いからです。

さらにさらに、「油漬け」と「水煮」に分けられるのですが、私は「油漬け」の方がより美味しく思えます。
もちろん「油漬け」ですからカロリーも高く、同じ80グラムの缶詰でも、油漬けが約240Kcal、水煮が約60Kcalと、「4倍」近い差があります。
これはダイエットには大敵です。
しかし「ダイエットに大敵」なモノほど、悲しいほど美味しいのが世の常なのであります。


調べてみると「シーチキン」と言うのは、メーカ「はごろもフーズ」が製造する「かつお」「まぐろ」の「油漬け」「水煮」の缶詰を示す商標登録「商品名」なのが分かりました。

一般名称は「まぐろの油漬け」「まぐろフレーク」「ツナ(tuna)」。


この「シーチキン」の上に「マヨネーズ」をたっぷりと絞り出し、さらに少量の「醤油」を垂らして、箸でチマチマ突っつきながら酒をチビリチビリ呑む。
私にとって、こんな至福な時はないのであります。
さらに、薄くスライスして冷水に晒した「玉ねぎ」を上に乗せると・・・、これはもう最高の贅沢なのであります。

あっ!誰だ。
「貧しい食生活」だなんて言うヤツは。



ちなみに、「はごろもフーズ」が「まぐろの油漬け缶詰」を発売したのが1957年。
翌1958年には「シーチキン」という商品名が付けられました。
つまり、今年(2008年)は「シーチキン誕生50周年」にあたるのであります。

実に目出度い事です。


でも、近年の「まぐろ」の世界的な価格の高騰は、当然「シーチキン」にも影響を及ぼし、「まぐろ原料」の「シーチキン」から「かつお原料」の「シーチキン」へと大きく移行しつつあると言います。

実に残念な事です。




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