SYU'S WORKSHOP
NOTES
「さらば愛しきルパンよ」について


注意:このページには「さらば愛しきルパンよ」のストーリィが書かれています。
このアニメーションをまだ観ていなくてストーリィを知りたくない人は、
すぐに元に戻ることをお勧めいたします。

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【テレビシリーズ「ルパン三世」について】

まず最初のルパン三世がテレビでオンエアされたのは「1971年10月」から「1972年3月」。
今から30年ぐらい前の事です。
当時のスタッフの
「子供にこびない、大人が楽しめる一級のエンターティメントをめざそう」という
企画意図通りに「ダークでアンニュイ、そして洗練されたアクションと気の利いたセリフ」という
今までテレビアニメでは考えられない様な世界が毎週展開されました。
しかし「大人をターゲットにしたアニメーション」が当時はまだ早すぎたのか視聴率は低迷。
シリーズ後半からは「明るく楽しく派手なアニメらしいアクション劇」にコンセプトを変更。
しかし、視聴率は上がらないまま、番組は全23話をもって終了しました。

この「第1シーズン」の前半の演出は「大隅正秋」氏。
そして後半の演出を「高畑勲」「宮崎駿」の両氏が担当していました。
前半の「暗くムーディなルパン」と後半の「明るく脳天気でバイタリティ溢れるルパン」、
その色の違いはハッキリしており、
ファンの間でも「どっちが良い」との論争は昔から絶えないのですが、
私はその両方とも大好きなのでした。
前半の「丁寧なキャラクター描写」があったからこそ、
後半の「脳天気ルパン」もあったと思うのです。

そして、「生前は認められなかった芸術家が後々有名になる」のたとえの通り、
オンエア時には低視聴率だったこの「第1シーズン」も、その後、マニアの間で話題を呼び、
そしてついに「1977年10月」より新しいシリーズが始まったのでした。
「第1シーズン」から5年後に再開した「新ルパン三世」はスタッフも一新。
「1977年10月」から「1980年10月」まで続く
「全155話」という大ヒットシリーズになったのでした。

しかしファンというのは何かにつけて文句を言う人種、
特に「旧ルパン」ファンはこの新作に対して
「どうもルパンのノリが軽すぎる」だの「ストーリィがお子さま向け過ぎる」だのいろいろと
不平不満を口にしたものなのでした。
そんな時、
この新シリーズには一切関わっていなかった旧作ルパンを演出した「宮崎駿」氏が
2本だけ演出をするらしいとの噂が流れてきました。
ちょうど、その「宮崎駿」氏が監督した劇場アニメ長編
「ルパン三世 カリオストロの城」が終わってしばらく経った頃だと思います。
「宮崎駿」ファンは狂喜乱舞、その2本の放映を今か今かと待ったのでした。
その2本とは「第145話」の「死の翼アルバトロス」と、
第2シーズン最終話の「さらば愛しきルパンよ」でありました。

そして。



【ストーリィ】

東京副都心、新宿上空。そこに静かに現れるタイトル「1981 TOKYO」。
(オンエアは1980年でしたから1年先の近未来の話なのです)
どこからともなく奇妙なカタチの小型の飛行機が飛来してくる。
それは急降下して地上に降り立つと、驚いた事に変形し、ロボットとなる。
唖然とする街の人々を後目に、目的の宝石店のショウウィンドウを破壊して侵入。
店内の全ての宝石を持ち去り、警官隊の到着するときには再び空へと飛び立っていった。

その事件の直後、
各テレビ局にルパンからの犯行声明が届けられ、それが日本中に放映される。
「国防省が秘密裏に造っていたロボット兵器を奪い、今回の事件を起こしたのは
その非人道的な目的を世間一般に知らせるためだ」と言うルパン。

ルパンのアジトに戻ってくるロボット。
そのロボットの中から出てきたのは操縦者である一人の少女。
名前を「小山田マキ」。
ロボット研究者であった彼女の父「小山田鉄一博士」は、
国防省の委託を受け武器開発を行う「永田重工」の口車に乗せられ、
知らない間に破壊兵器としてのロボットを開発させられていたのだ。
それが「装甲ロボット兵ラムダ」。
その事実を知った父が死に、途方に暮れていた彼女に助けを申し出たのがルパンだった。
「事が全て終わったら、罪の償いはするつもりです・・・」とうなだれるマキ。

次の日。
東京には厳戒令がひかれ、空には武装へりが飛び、街中には戦車が溢れ出す。
そして再び飛来するロボット。
渋滞で停止している民間車を踏みつぶし、ラムダに発砲する戦車。
吹き飛ぶビルの壁面。逃げまどう人々。大パニックに陥る新宿の街。
その渦中に銭形警部の姿。事件の真相を追うべく、一人行動を開始したのだった。
逃走するロボットを追い、ルパンのアジトに潜入する銭形。
が、ルパンに後頭部を殴られ気絶してしまう。

再び銭形が気がついたときにはアジトに囚われの身となっていた。
そこにマキがやって来て銭形を介抱しコーヒーを飲ませる。
しかし、そんなマキに対して
「何人死んだかな・・・。昼間の騒ぎで何人死んだ!」と容赦なく詰め寄る銭形警部。
そこにルパンが登場。
銭形警部、それが「偽ルパン」である事を看破する。
驚愕するマキ。
悪びれず本性を現す偽ルパンたち。
彼は「永田重工」と手を組み、ロボットの売り込みのための「デモンストレーション」として
今回の事件を引き起こしたのだった。
アジトに爆薬を仕掛け逃走する偽ルパンたち。
手足を縛られたままラムダに無理矢理乗せられてアジトから放たれるマキ。
爆発炎上するアジトからようやく縄を解き、その飛び立つラムダに跳躍する銭形警部。

飛行するラムダのハッチを開け、マキの縄をほどく銭形。
「警部さん!」と振り向いたマキが見たのは、
今まで銭形に変装していた本当のルパンの姿だった。

「永田重工」そのロボット兵器開発ルーム。
偽ルパンと今回の事件の黒幕である永田重工重役が集まっている。
そこにビルの天井を突き破りラムダと本物のルパンが登場する。
追いつめられた重役は、最後の手段としてラムダの量産タイプであり、
さらに破壊力を増した殺人ロボット兵器「シグマ」を発動させる。
が、シグマの「制御装置」はすでにマキによって取り除かれており、制御を失ったシグマは
狂ったように研究所を破壊し始める。
「さっき外したの。シグマに研究所を破壊して自爆するように命令したわ」とマキ。
観念する悪者たち。

炎上する永田重工から出てくるラムダとマキ。ラムダは悪者たちを抱えている。
そこに本物の銭形警部がようやく登場。
「ルパンの名を騙るとはバカなヤツらだ。して奴(キャツ)は?」
「もうあの方は行ってしまわれました。ありがとうルパン・・・」
彼方を見つめる優しいマキの表情。


終わり。


【解説】

テレビの30分のアニメーションでこの盛りだくさんのストーリィ!
しかもオープニングやエンディング、
アイキャッチやCM部分を除くと正味「20分ちょっと」だというのに、
よくもまあ、ここまで詰め込んだモノです。
当時の私は「ああ、もったいない!」とすら思ったものなのでした。
充分、劇場映画に出来るほどのストーリィ、そして作画なのでした。
そう、作画も素晴らしいのです。
冒頭の「新宿の大ロング」の絵など、まるで写真の様な丁寧な背景画なのでした。
それもそのハズ、
美術スタッフはこのアニメのために新宿周辺ロケハンまで行ったと聞きます。

リアルな背景作画があってこそ、そこにある日突然現れる異形のロボット兵、
それを迎え撃つ戦車たち、という構図がリアリティを持ってくると思うのです。
この「市街地での戦車戦シーン」はアニメ史上に残る素晴らしさで、
昔「宮崎駿」氏が東映動画時代、
原画で参加し担当したという「空飛ぶ幽霊船」の同様のシーンのバージョンアップ版です。
「飛行しているモノ(ラムダ)を戦車砲で狙っちゃイケナイよなあ」
などと言う人もいるでしょうが(実は私)、
そんな事も観ている最中には全然気にさせない作画の力(上手さ)があるのでした。

また「装甲ロボット兵ラムダ」の造形が素晴らしい。
心ないファンの中には
「だってアレ、フライシャーのスーパーマンに出てくるロボットのパクりでしょ?」
などと言う人もいますが、
劇中、銭形警部に「まるでスーパーマンですなー」と言わせているセリフからも分かるように
これは「パクり」じゃなくて「確信犯的オマージュ」だと解釈した方がよいでしょう。
「宮崎駿」氏もこのロボットのデザインに愛着があるらしく、劇場長編「天空の城ラピュタ」でも
再び同様のロボットを登場させているのは周知の事実です。
そしてラムダの操縦者である「小山田マキ」も素晴らしい。
(ちなみに、劇中、銭形が見ている資料の中には、小山田真希という漢字表記の名前あり)
この「メカ」と「美少女」という組み合わせ、昔の「宮崎駿」氏のアニメーションには
頻繁に登場する「アイテム」だったのですが、近年、「メカ要素」が抜け、
さらには「美少女要素」が抜けていき、
寂しい思いをしているファンは私だけではないハズです。

この「さらば愛しきルパンよ」には大きな仕掛けが二つあります。
(と私は思っています)
まず、ヒロインの「小山田マキ」。
このキャラクターの声を演じているのは、
この「さらば愛しきルパンよ」の前の年に劇場で公開された
「ルパン三世 カリオストロの城」でもヒロイン「クラリス」を演じた「島本須美」さんです。
声ばかりかキャラクターの姿形も何となく「クラリス」に似ているカンジです。
(クラリスよりかは母を訪ねて三千里に出てくるフィオリーナが大きくなった姿だ、
という説もあり)
「カリオストロの城」のラストで「泥棒は出来ないけど」と言っていたヒロインが、
時と場所を変えて生まれ変わり
「泥棒が出来る」ヒロインになって(初っ端、宝石強盗ですから)
ルパンのところに戻って来たのだ、なんて思ったりするのでした。

次に、このアニメに登場するルパンの大部分は「偽ルパン」であり、
最後の最後になって、「本当のルパン」が現れます。
この「さらば愛しきルパンよ」が「第2シーズンの最終話」である事を鑑みると、
これって、「第2シーズンに登場していたルパンは実は今までみんな偽物だったのよ」
という壮大な「オチ」なのではないでしょうか?
これはあまりにも「旧作ルパン」ファンである私の妄想なのかな。


というワケで、
長い文章、最後まで読んでいただいてありがとうございました。



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