SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.107
「地下に潜むモノ」
について

(2009年10月3日)


「地下でとんでもないモノと遭遇してしまった」という話は、昔の怪奇映画やSF映画でよく見られたシチュエーションでした。
この場合の「とんでもないモノ」とは「怪物・怪獣の類」であります。

今回のエッセイは前に書いた「東宝SF映画(6) 空の大怪獣 ラドン」の補足・追加エッセイなのです。



このシチュエーションで、まず海外作品で思い出すのは、ひとつのTVドラマと、二つの映画です。


ひとつのTVドラマとは「宇宙大作戦(1966〜69)」です。
「スター・トレック」の一番最初のシリーズ、その第20話(本国アメリカでは第25話)「地底怪獣ホルタ(1967)」であります。

宇宙歴 3196.1(西暦2267年)。
惑星「ジュナス6」の「ペルジウム」地下発掘現場では謎の事故が多発していました。
ペルジウムとはスター・トレックの世界で、「生命維持システム」の動力源として必要とされている鉱物です。
その調査のため「エンタープライズ号」が派遣されます。
現場の人間を焼き殺し、坑道内を自由自在に突き進み、施設を破壊し続けていた怪物の正体は、ジェナス6の原生珪素生物「ホルタ」でありました。
彼・彼女たちは人間に乱開発され、自分たちの卵を殺された復讐をしていたのです。
ここで「ミスター・スポック」がホルタとの「精神融合(心を読む)」を行います。
これにより事情が判り、「異種族との和解」が成功します。
SF小説には昔からありましたが、TVや映画の映像作品で「珪素生物」が登場したのは、これが初めてではなかったでしょうか?
それとも私は未見ですが、その前のSF映画「Monolith Monster(1957)」が最初の珪素生物だったのかな?
いずれにせよ、この「異種族との和解」は、スター・トレック世界全体を通した「メイン・テーマの一つ」なのであります。


二つの映画とは、「火星人地球大襲撃(1967)」と「サラマンダー(2002)」であります。

「火星人地球大襲撃(1967)」は「クォーターマス教授シリーズ」として作られた3番目のSF映画でした。
「クォーターマス教授」は1953年から始まったイギリスのSFTVシリーズで、映画でも「ハマーフィルム」が数作品製作していたのです。
一作目が「原子人間(1956)」、二作目が「宇宙からの侵略生物(1957)」、そして三作目が本作「火星人地球大襲撃」でした。
いずれも「クォーターマス教授」が奇怪な事件を解明していくという、古くは「事件記者コルチャック(1974〜75)」、近年なら「Xファイル(1993〜2002)」系列の、最初に位置する物語なのであります。
ロンドンの地下鉄工事現場。
その「500万年前」の地層から、イナゴの様な宇宙人の遺体が入った宇宙船が発掘されます。
調べてみると、それは遙か昔、全滅してしまった火星人の姿なのでした。
しかも、それは発掘と同時に強烈なエネルギーを周囲に発散し始めたのです。
それは人の精神に影響を与え、互いが互いを殺し合うという恐ろしい事態を巻き起こしたのです。
それは500万年前の最終戦争で全滅した「火星人の忌まわしい記憶」を再現していたのです。
阿鼻叫喚の地獄と化すロンドンの街々。
人々を見下ろす様に浮かび上がる、巨大で悪魔の様な火星人の姿・・・。
ロンドンの集団大狂乱シーンは、後の「スペースパンパイア(1985)」にも影響を与えている名場面だと思います。

同じ「ロンドンの地下鉄工事現場で発掘されたモノが、やがて人類滅亡への発端となる」という話は、数十年後にも作られています。
「サラマンダー(2002)」です。


「サラマンダー(2002)」も地下鉄工事現場から物語が始まります。
ロンドンの地下鉄が怪奇SF物語の導入に選ばれるのは、そこが「一世紀半前」に世界で初めて作られた「地下鉄道」である事と無関係ではないでしょう。
本物語はそこで伝説の火竜「サラマンダー」が発見されてしまうのでした。
その一匹を頂点に、サラマンダーは異常な大繁殖を起こしていきます。
人々はサラマンダーの「餌」となり、都市という都市は彼らの吐く火炎で焼き尽くされてしまいます。
十数年後・・・。
生き残っている人類は僅かで、数十人が固まり、地方に隠れ住む惨めな生活を送っていました。
私がこの映画で好きなシーンは、人々の隠れ家である砦で、「大殲滅時代」以降生まれた小さな子供たちを集め(彼らは新聞雑誌TV等の娯楽を、生まれた時から知らないのです)、あの時代を生き延びた主人公の青年二人が、芝居ッ気たっぷりに「寸劇」をして見せるところです。
子供たちにとって唯一の娯楽は、寝る前に見せてくれる二人の「寸劇」だけなのです。
「すーはーすーはー」と息も荒く剣を交える二人。
悪者が主役を追い詰めていきます。
手を差し出す悪者。
そして衝撃的な次の言葉。
「私は・・・私はお前の父親なのだ!」
「う、嘘だぁーー!!」
おおーっと盛り上がる子供たち。
そう、二人は「スター・ウォーズ」を演じていたのでした。



日本の「地下に潜むモノ」で作られた怪奇・SF映画で一番最初に思い浮かぶのは、やはり「空の大怪獣 ラドン(1956)」でありましょう。
それを別にすると、ひとつのTVドラマと、三つの映画の事を思い出します。


ひとつのTVドラマとは、「ウルトラQ(1966)」であります。

「ウルトラQ」は本邦初の本格SFTVシリーズで、記念すべき最初の放送が「ゴメスを倒せ!」と言う「トンネルから始まる物語」だったのです。
東京と大阪を結ぶ東海弾丸道路。
その北山トンネル掘削中、古代哺乳類の「ゴメス」が出現してしまいます。
そのゴメスと一緒に大きな卵も出現、それがやがて怪鳥「リトラ」となります。
このゴメスが東宝映画「モスラ対ゴジラ(1964)」のゴジラを、リトラが「空の大怪獣 ラドン」の操演用ギニョールを改造して作られた事は、もはやマニアの間では有名な話です。
この二匹は壮絶な戦いを繰り広げ、リトラは口から「シトロネラ酸」を吐きゴメスを倒すのですが、それを吐いた事で自ら絶命してしまいます。
リトラを懸命に応援する恐竜好き少年「ジロー」の、「リトラっ!ゴメスをやっつけておくれー!」の悲痛な叫び声と、30分番組の最後を締める「石坂浩二」の「東海弾丸道路の北山トンネルを抜けると、小さな墓標が立っています。それはジローくんが立てた勇敢なリトラの墓なのです」という名ナレーションと共に、当時TVの前で観ていた子供たちを皆感動させたのでありました。
「ゴメスを倒せ!」は、「操演用ラドン」を改造したリトラとか、トンネルの中で怪獣が出現するコンセプトであるとか、そして何より地下を彷徨う主人公役が「佐原健二」である事とかが、これより「10年前」に製作された「空の大怪獣 ラドン(1956)」を思い出させるのであります。


三つの映画とは、「ノストラダムスの大予言(1974)」と「帝都物語(1988)」と「ガメラ2 レギオン襲来(1996)」であります。

「ノストラダムスの大予言(1974)」は30年以上前の「東宝SF映画」でした。
映画が作られた「70年代」は、「災害映画」と「ノストラダムス」が流行った時代でもありました。
その二つのブームを合わせ作られたのが「ノストラダムスの大予言」でした。
「丹波哲郎」演ずる環境学者「西山玄学」は、ノストラダムスの著書「諸世紀」を元に、恐るべき人類の未来図を描いていきます。
新開発された薬品により「夢の島」では巨大ナメクジが出現。
日本列島は大量の赤潮に包まれ、各地では子供たちの異常発達が続出します。
ニューギニアでは放射能汚染が、狂った生態系を作り上げてしまいます
エジプトでは激しい猛吹雪が吹き荒れ、ハワイでは突如氷結した海上に旅客船が閉じ込められてしまいます。
超音速旅客機の空中爆発がオゾン層を破壊、強烈な紫外線が地上へ降り注ぎ、各地で大火災が発生します。
そして最後は「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」の予言通り、全面核戦争により地球は「死の星」となってしまうのでした。
次々に描かれる東宝お得意の特撮を使った「地獄絵図」の中でも、特に印象に残っているのは「地下鉄銀座線」が突然、気味の悪い巨大シダ類に覆われてしまうシーンでした。
もはやミニチュアとは言えない大きな模型を使った、かなりリアルな映像でありました。

本映画が「いくつかの理由」により、LDでもDVDでも今だ発売されていないのは実に残念な事なのであります。


「帝都物語(1988)」は「荒俣宏」の大河伝奇小説を「実相寺昭雄」が映画化した、これまた東宝SF映画でした。
史実と架空の人物たちが、帝都東京の壊滅を目論む「魔人 加藤保憲」と、過去から未来へかけ長い戦いを繰り広げる物語でした。
大正の「関東大震災」で一端壊滅した東京は、昭和に入り急激な復興を始めます。
浅草から始まった「東京地下鉄道」も上野を目差し掘り進めていくのですが(後の銀座線)、思わぬ妨害が入り工事は中断してしまいます。
地下鉄工事が「大地エネルギー」の流れ「地脈」を切断してしまう事を知り、加藤が「悪鬼」を放ったのです。
加藤はこの「地脈」を利用し、「平将門」を甦らせ、再び東京に大地震を起こそうとしていたのでした。
この悪鬼を退治するため「學天則」という日本初の人造人間(ロボット)が使用されます。
トンネル内に暗躍する悪鬼たちに向かい、ダイナマイトを持ち勇ましく進んでいく學天則。
この「オカルトVS科学」という図式は、昔から私の好きなモノでした。
結局、學天則の「自爆」により、辛うじて悪鬼たちを退治する事に成功します。
この「人間のために犠牲を厭わないロボット」というのも、私の大好きないつも感動する展開なのでした。


「ガメラ2 レギオン襲来(1996)」は、いわゆる「平成ガメラ」と呼ばれる怪獣映画で、またまた東宝SF映画です。
冬。北海道。支笏湖の南西。
不思議なオーロラが発生した夜、そこに巨大な隕石が落下します。
それから数日後。
「札幌市営地下鉄」のトンネル内に、謎の生物が発生します。
それは蟹の様な蜘蛛の様な一つ目の黒い怪物で、全長は3メートル。
その怪物たちが群を成し、乗客たちを襲って来たのでした。
正体は隕石に乗ってやって来た外宇宙の「珪素生物」で、人の持つ「珪素(眼鏡やら携帯電話やら)」を食料として狙っていたのです。
急遽駆け付ける陸上自衛隊。
しかしこの恐ろしい事件は、その後始まる驚愕の大惨事への前哨に過ぎなかったのです。
この映画も「空の大怪獣 ラドン」のオマージュで成り立っています。
地下で起こる奇怪な生物による事件。
そしてやがて登場する巨大な怪獣レギオン。
ラドンと違うのはレギオンが「テラフォーミング(惑星改造)」というSF的な「侵略の意図」を持っている事でしょうか。
私などは「もっともっとレギオンと自衛隊の攻防戦が観たかった!」と思うのですが、そうなるともはや「ガメラ映画」じゃなくなるのでしょう。
それで良かったのに、と思うのですが、ま、それだと「金出す人(スポンサー)」もいなかったのでしょう。



かくして。

惑星「ジェナス6」の地下坑道には珪素生物「ホルタ」が潜み、ロンドンの地下鉄工事現場には500年前の「火星人の宇宙船」が潜み、同じロンドンの地下鉄工事現場には「サラマンダー」が潜み、東海弾丸道路の北山トンネルには「ゴメス」と「リトラ」が潜み、地下鉄銀座線には「巨大シダ類」が潜み、帝都最初の地下鉄工事現場には「悪鬼たち」が潜み、札幌地下鉄には「ソルジャー・レギオン」が潜んでいるのであります。

もちろん、阿蘇の炭坑には古代トンボのヤゴ「メガヌロン」と怪鳥「ラドン」が潜んでいる事も忘れてはなりません。


ああ・・・、恐ろしい・・・。


最近(2009年8月)ふと観たNHKでイギリスのSFドラマをやっていました。
「プライミーバル(2007〜)」というドラマで、現代の複数箇所に「時空の歪み」が生じ、そこから過去の恐竜が彷徨い出てくる話でした。
たまたま観た回では、やっぱ「ロンドンの地下鉄」に、その「時空の歪み」が出来ていましたっけ。




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