SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.146
「劇団○○みたいな」
について

(2013年7月1日)


明転。


舞台中央に古い二階建ての木造店舗。
屋上には物干し台。
二階は住居なのだが、窓を塞ぐように大きな看板「川」「越」「食」「堂」がある。
一階は店舗。
曇りガラスが嵌まった格子の木枠が三枚。
真ん中を右に開くと店内である。

私は前に小劇場の芝居に嵌っていた事があったのです。
85年頃から10年間ぐらいの昔、いや、もはや大昔の話です。


店の表に六人の男女、右から若いサラリーマン、女子高生、中年の工場長、老人の小説家、中年の主婦、二十歳過ぎの保母が空を見上げ佇んでいる。
劇場全体にヘリコプターの音が響いている。
小説家「何かあったんですかな」
工場長「やたらとヘリが飛んでますね」

今はどうなっているのか判りませんが、当時はちょっとした小劇場ブームがありました。
面白い劇団が次から次へと誕生し、深夜テレビでもちょくちょく舞台中継(録画)していたモノでした。


ヘリコプターの音は※上手から※下手に移動していく。
六人はそれを目で追いながら芝居。
主婦「近くで事故とかあったんでしょうか?」
保母「まあ、怖い」
サラリーマン「単にここら辺がヘリの通り道なんでしょう」
女学生「ちぇ」
音が下手に消え、一人二人と「川越食堂」に入っていく。

※「上手」は「かみて」と読み、観客から見て舞台の右袖の事。
主要人物が登場する時は「上手」からが多いのです。
※「下手」は「しもて」と読み、観客から見て舞台の左袖の事。
人物が舞台から去る時や、「その他大勢」が登場する時は下手が多いのです。




上手から、白髪だらけの男がヨロヨロと出てくる。
ボロボロの探検服を着、水筒と双眼鏡をバッテンに胸に掛け、背中には大きなリュック。
リュックから虫採り網が高く屹立している。
放浪学者「私は日本各地を何十年もかけて、道端に落ちているオノマトペを収集して来た」

「日本語」を扱っているとなると、これは「井上ひさし」が座付き作家をしていた「こまつ座」かも知れません。
という事は、ここは「紀伊国屋ホール」かな?


何かを見つけ、舞台中央でしゃがみ込む。
右手の親指と人差し指を使い、そっと摘まみ上げ、
放浪学者「これは・・・『ペラペラ』だな」
さらに顔を近づけ観察し、
放浪学者「元は『ヒラヒラ』が成長してこうなったんだ。あっ」
急に指先から、四方八方の地面に視線を移し、悲しそうに、
放浪学者「『バラバラ』なってしまった」
何か探すようにフラフラと、下手に消える。



下手から、白衣を着た三人の男、1.5尺(約45センチ)の※サイコロを胸に抱え歩いてくる。
舞台中央でサイコロを扇状に展開し、その上に各自座って、
研究員A(苦々しく吐き捨てるように)「河童は・・・胡瓜だろ」
研究員B「あれかね?胡瓜に蜂蜜つけるとメロンになるって本当かね?」
A、Bを睨みつける。

あ、これは「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」のパターンだ。
という事はここは「ラフォーレ原宿」だったか。


研究員C「河童は茄子じゃないかな?」
研究員B「あれかね?茄子はやっぱ嫁に食わしちゃいけないのかね?」
AとC、共にBを睨みつける。
そこに研究員Dが、下手より走り込んでくる。
研究員D「か、か、河童が、見つかったぞーっ!」
そのまま上手に走り去る。
研究員A、B、C「え?」「何?」「河童?」とサイコロを持ち、Dを追って上手に消える。

※「サイコロ」とは、木で作られ白く塗られた正六面体の事です。
サイズは数種類がありますが、基本的には両手で持ち運びできる大きさです。
これを舞台上で「椅子」に見立てたり、数個並べて「ベット」に見立てたりするのです。




天然パーマで半ズボンの小学生男子、上手より歩いてくる。
背中に大きな青いランドセル、大きな「紙の家の模型」を抱えている。
追いかけるように小学生女子、上手より登場。
同じく大きな赤いランドセル。
小学生女子「ねえねえ、それ(模型)見せてよお」
小学生男子「嫌です。民子さんガサツだから絶対壊します」

この二人は「山田のぼる」と「杉並民子」みたいですね。
じゃ「遊●機械/全自動シアター」の舞台だったか。
小屋は「新宿タイニイアリス」?


小学生女子「ガサツってなぁに?」
小学生男子「民子さんみたいな人の事です」
小学生女子(身をくねらせ)「ふぅん。ども。ありがとう」
小学生男子「僕。いつ褒めちゃったんだろう・・・」
二人「ねえ見せて」「嫌です」を繰り返しつつ、下手へ消える。



下手から、長女、次女、三女、四女、五女が歩いてくる。

また変わったみたいです。

服装はバラバラ(割烹着、スーツ姿、トレーナー等々)だが全員、スーパーにある買い物カゴをぶら下げている。
一列になって歩きながら芝居。
四女「やっぱ船に乗った方が良かったんじゃない?」
長女「あんたねえ。あんな船に乗ったら、どこに連れて行かれるか判らないじゃない。馬鹿ねえ」
次女「でも、あの船頭さん、とってもお優しいお顔していらっしゃいましたよ」
長女「あんたねえ。人を見たら泥棒と思え、渡る世間は鬼ばかり、弱肉強食・阿鼻叫喚、そんなヒロシに騙されて。あの『とってもお優しいお顔』に心を許して、船に乗ったが運の尽き。気がつきゃそこはマグロ船。馬鹿ねえ」

ああ判りました。これは「劇団 青い鳥」です。
場所は「青山円形劇場」でしょう。
私はこの劇団の舞台「青い実をたべた」が大好きだったのです。
面白い役者が揃っていました。中でも「伊沢磨紀」が好きだったなあ。


三女「何よ、マグロ船って?」
長女「朝から晩までマグロを釣らなきゃならない船の事よ。一生死ぬまでマグロ、マグロ、マグロ。あんたマグロの一本釣りってした事あるの?縁日の金魚すくいとは違うのよ。マグロの一本釣り。も、こぉーんな(と両手で)でっかいマグロを『えいやっ』と腰のバネを使って釣り上げるのよ。も、デェーヘン(大変)なのよ。それを一日何匹も何匹も何匹も、何日も何日も何日も『えいやっえいやっえいやっ』しなくちゃならないのよ。あんたに、その覚悟があるの?」
三女「・・・」
長女「どうなのよ?」
次女「・・・」
四女(こっそりと)「あんたはどう思っているの?」
五女「私は・・・」
この段階で四女まで上手に※捌けている。
五女ひとり舞台に残って、
五女「やっぱ私は乗る!」
歩いて来た方向と逆、下手にダダッと走り去る。

※「捌ける」とは、舞台から小道具や大道具を出す事、あるいは人物が出ていく事をいいます。



下手から、※お釜帽を目深に被り黒いコートを着た男三人、各自、黒い自転車を押しながらやってくる。
自転車の荷台には紙芝居の黒い額縁。
夜の紙芝居屋A「山の向こうにお陽さま消えて」
夜の紙芝居屋B「地上の影も無くなって」
夜の紙芝居屋C「夕暮れ時は寂しそう」
夜の紙芝居屋A「鳶も烏ももういない」
夜の紙芝居屋B「太郎も花子ももういない」
夜の紙芝居屋C「夕暮れ時は寂しそう」

こんなセリフはいかにも「小劇場」っぽいですね。
私が小劇場に嵌ったのも、こおいう「ちょっと不思議な黒い部分」に惹かれたのです。
ちなみに※「お釜帽」とは、映画の金田一耕助が被っていた帽子です。


続いて上手より、少年ひっそりと登場。
少年「ねえ、おじさんたち、何か見せてくれよお」
一瞬ギョッとするが、すぐにニタリとする夜の紙芝居屋たち。
少年を取り囲む。
夜の紙芝居屋A「ぼうや、一人かい?」
少年「ぼくは一人だい」
夜の紙芝居屋B「おとうさんは?おかあさんは?」
少年「ぼくが赤ん坊の時に死んじゃったい」
夜の紙芝居屋C「帰るところはあるのかい?」
少年「帰るところは・・・」
たたん。

少年「光と闇の狭間に棲み、
人とお化けの外れに棲み、
昨日と明日の裂け目に棲み、
正義と邪悪の境界に棲む」

夜の紙芝居屋A「お、お前は」
夜の紙芝居屋B「き、き、」
夜の紙芝居屋C「鬼太郎!」

あっ。これは「劇団 3○○」だ。場所は「本田劇場」だっけかな?

少年、履いていた下駄を一段と高らかに鳴らす。
だだんっ!!
夜の紙芝居屋A、B、C「う、うわーっ!?」

暗転。



闇の中、ヘリコプターの音が近づいてくる。
会場全体ヘリコプターの爆音で一杯になる。



明転。

「川越食堂」の前の六人。
移動していく音を追いながら、
小説家「何かあったんですかな」
工場長「やたらとヘリが飛んでますね」
主婦「近くで事故とかあったんでしょうか?」
保母「まあ、怖い」
サラリーマン「単にここら辺がヘリの通り道なんでしょ」
女学生「ちぇ」
サラリーマン「ちぇって何だよ」」
音が下手に消え、一人二人と「川越食堂」に戻っていく。

またヘリコプターのシークエンスが出て来ました。
前に「漫画とは無いモノを有る事にして成り立っている表現方法だ」と書いた事がありました(漫画における『ない』けど『ある』)。
「演劇」も同様だと思います。
私は上記の様な「ヘリコプターが出てくる芝居」を何回か観たような気がします。




その「川越食堂」から別の女が出てくる。
短い髪に濃いめのルージュ。スパンコールの深紅のチャイナドレス。
舞台照明が一段落とされ、彼女にスポットライト。
せり上がってくるスタンドマイクの前で、歌い出す。
それは陽気で、どこか哀愁のあるデキシーランド・ジャズ。

歌手「♪My house is located at a very far and very near place♪」
屋上の物干し台にクラリネット奏者、いつの間にか登場。
衣装は白いスーツに黒い蝶ネクタイ(以下のバンドマンも同じ)。

ん?「博品館劇場」で公演していた「自由劇場」ですね。
何かややこしい・・・。


歌手「♪However, I will certainly return to the house♪」
物干し台にアルト・サックス奏者。
続いてトランペット、トロンボーン奏者。
歌手「♪Even if every day of pain and regret is waiting, I will surely go home♪」
「川越食堂」の裏(右)からコントラバス奏者とドラム奏者。
歌手「♪It's since that is the house where I was born♪」
「川越食堂」の裏(左)からピアノ奏者。
歌手「♪My house is located at a very far and very near place♪」
余韻の中で客席におじぎする。



その前に下手から、放浪学者が入ってくる。
舞台中央で床から何か摘まみ上げ、
放浪学者「あっ。これは『ワクワク』だ」
歌手とバンド・メンバー「えっ!?」

それを合図に上手から、研究員A、研究員B、研究員C、研究員D、長女、次女、登場。
下手から、三女、四女、五女、夜の紙芝居屋A、夜の紙芝居屋B、夜の紙芝居屋C、登場。
客席後方から、小学生男子、小学生女子、登場。舞台へ向かう。
満面の笑顔で、全員いっせいに歌って踊り出す。

全員「♪さあ朝だ!朝が来た!ボクたちの旅立ちの朝だ!」

ああ。これは小学生の時、担任の先生に引率されて、みんなで行った「日生劇場」じゃありませんか。
懐かしいなあ。


男性陣のダンスが止まり、いっせいにその場に固まって、
全員「♪月も消えた暗い夜、ボクらは仲間を求めて荒野を彷徨った」

女性陣のダンスが止まり、いっせいにその場に固まって、
全員「♪夜明け前の暗い道、ボクらは足元を照らして欲しかった」

再び全員が踊りだす。
全員「♪でも、ついに陽が昇った!闇夜は影に!不安は光に!」

舞台全体を使って、
全員「♪ボクたちの旅立ちが(終わる事のない)、冒険が(終わる事のない)、物語が(終わる事のない)始まったのだ!」
下手上空を指し、その方向を見上げたポーズで決まる。
みんな晴れやかな満面の笑顔で。

暗転



忍び込んでくるヘリコプターの音。

またまたヘリコプターです。何だろう?



明転。

「川越食堂」の前の六人、移動していく音を追いながら、
小説家「何かあったんですかな」
工場長「やたらとヘリが飛んでますね」
主婦「近くで事故とかあったんでしょうか?」
保母「まあ、怖い」
サラリーマン「単にここら辺がヘリの通り道なんでしょ」
女学生「ちぇ」
サラリーマン「ちぇって何・・・」
何かに気づき、前に出て五人全員をしげしげと舐め回す。

ヘリコプターの音、下手に消えていく。
主婦「どうかしたの?」

サラリーマン「僕たちって、さっきから同じ事、繰り返してませんか?」
工場長「なんだい、そりゃ」
サラリーマン「ヘリコプターの音を聴いて店から飛び出し、ひととおり全員が同じ事を喋る。ヘリが去ると再び店に戻って・・・これ繰り返していませんか?」
保母「まあ、怖い」
工場長、じろりと保母を睨む。

小説家「何のためにかね」
サラリーマン「それは・・・(言葉を濁し)僕と同じ事を思った人いませんか?」
お互い顔を見合わせ、全員しばらく黙っていたが、
女学生(ぽつりと)「あたしも・・・そう思ってた」

堰を切ったように一斉に喋り始める。
工場長「俺はただ昼飯食いに来たのに」
主婦「嫌だわ私、洗濯物干して来ちゃった」
小説家「これからどうなるのかね」
保母「早く戻らないと絵本の時間が」
女学生「学校行かなくていいんだ」

サラリーマン「僕たち、実はもうみんな・・・死んでいるんじゃないですかね?」
全員「えっ!?」
ガラスを砕いたような衝撃音。

うわ!?みんな死んでるって芝居は「安部公房」っぽいです。
「安部公房」の「演劇集団 安部公房スタジオ」?
「草月ホール」かな?




舞台照明が一段落とされ、下手に死神が現れる。
大きな鎌を持ちフード付きのマント。身長は異常に高く2メートル半はある。
フード越しに見える顔は、髑髏。
六人に向かって、ついて来いと手招きする。

え?え?私は小劇場の芝居だと思ってたけど「モンティ・パイソン」?しかも映画の?「人生狂騒曲」です。

工場長「や、やっぱ鯖味噌にしときゃよかった」
主婦「せ、洗濯物」
小説家「は、ひふへほ」
保母「ま、まあ、怖い」
女学生「し、死ぬのはヤ」
サラリーマン「ま、漫画じゃん」



上手に、トレジャーランドの従業員二人登場。
従業員A(死神を指さし)「あ、あんな所にいた」
従業員B「だからバイトは駄目なんだ」
六人の前を素通りし死神の所へ。
従業員A「お前なあ、あの人たちはゲストじゃないから」
従業員B「だいたい、ここホーンテッドマンションじゃねえし」
死神(髑髏の面を外ながら)「前、全然見えないンすよ」
と、従業員に引っ張られながら下手に退場していく。

主婦「ああ吃驚したわ」
工場長「何だったんだ」
保母「変だと思いました」
女学生「助かったあ」

なーんだ。
「モンディ・パイソン」と思っていたら、それをオマージュしている「ケラリーノ・サンドロヴィッチ」の「劇団健康」じゃないですか。
「新宿アシベ」の上のホールで観たなあ。
男性陣がみんな全裸で走り回っていたっけ。


サラリーマン「死神なんているわきゃ無いですよね」
小説家(人の顔を外すと髑髏)「いるよ」
全員「えっえーっ!!」

暗転。



本エッセイは「この劇団の芝居だったら、こんな感じかな?」と私が妄想して書いただけで、具体的に何かから引用したモノではありません(当時、小劇場に嵌っていたのは本当)。
そおいった意味で、「この劇団はこんな感じじゃないやい」という方がいらっしゃいましたら・・・。
申し訳ありません、であります。

禁無断引用転載。




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