SYU'S WORKSHOP
ESSAY VOL.137
「ある午後の団地の風景」
について

(2012年2月25日)


大昔、私が中学・高校の時に嵌っていたラジオの深夜放送がありました。以前エッセイにも書いた「ラジオ関東(現・アール・エフ・ラジオ日本)」の「男達の夜・・・かな!?」です。

その番組の中で「ショート・ショート・コーナー」という「400字でお話を作る」コーナーがあり、私は「零十三」というペンネームで度々送り、度々読まれたのでした。
今で言うなら「常連のハガキ職人」となるでしょうか。
前に「幽霊がやって来る」という作品を紹介しましたが、新たに別のショート・ショートが見つかったので、ここに書いておくのであります。



ある午後の団地の風景
東京都・零十三

 静子が台所で夕飯の支度をしていると、五つになる一人息子の進(ススム)が帰ってきた。
 台所に入ってくるなり「ママ、なにかない?」と大声をあげる。静子は包丁の手を休めずに「ちゃんと手を洗ったらテーブルの上にお菓子があるわよ」と優しく言った。
 以前は、彼女の夫が進に大変甘いせいもあって、静子は厳しい母親を演じてきた。自分だけが進に対して損な役割をせねばならぬのが不満で静子はいつも夫と争った。
 昨日の大喧嘩もその事が原因だった。
 しかし、これからは優しい母親になれるのだった。
「進ちゃん、食べ終わったらパパ見てくれない?」
「うん。いいよ」
 進は元気よく答えた。いつもの日曜日なら会社のつきあいとか言って外出してしまう夫だったが、今日は家にいる。進が夫の顔をのぞき込む。
 夫のうつろな瞳が進を見るでなく、ある一点を凝視している。
「パパ、大丈夫だよ」
 そして進は勢いよく冷蔵庫のドアを閉めた。
(2月16日放送?)




台所で包丁を持っている母親。
主人公が小さな男の子で名前が「ススム」。
今にして思えば、これは明らかに「永井豪」の大昔の傑作短編漫画「ススムちゃん大ショック(1971)」の影響だと思います。

永井豪と言えば。

これも大昔の話なのですが、私の大好きな「石森章太郎(1938〜98)」の「石ノ森章太郎氏を偲ぶ会〜ファンの集い(1998.4.10)」の際、祭壇に献花する前に、故人と親しかった漫画家から花を受け取るのですが(確か竹宮恵子もいたかなあ?違うかなあ?)、私に「はい」と言って一輪の菊を渡してくれたのが、「永井豪」でしたっけ。




目次へ                               次のエッセイへ


トップページへ

メールはこちら ご意見、ご感想はこちらまで